誕生日に感じた母の小さな異変
10月のとある木曜日、遥花はリビングのソファに腰かけ、スマートフォンを手に取った。
今日は離れて暮らす母・祥子の誕生日だ。今年で71歳になる。
何度か呼び出し音が鳴ったあと、聞き慣れた声が返ってきた。
「もしもし、遥花?」
「お母さん、誕生日おめでとう」
「ありがとう。もうおめでたいって歳でもないけどね」
「お母さんそれ、毎年言ってるよ」
遥花は毎年、母の誕生日にプレゼントを贈っていた。今年は肌触りのよさそうなカーディガンを選び、数日前に実家へ送ってある。以前は夫の慎二や息子・勇人を連れて帰省することもあったが、息子が成人した今では、直接会う機会も減っていた。
「あ、そうだ。ちょうど素敵な上着も届いたところよ」
「よかった。これから寒くなるし、ちょうどいいかなと思って」
母はさっそく袖を通してみたらしく、色も気に入ったと嬉しそうに話してくれた。遥花も贈ってよかったと思いながら、何気なく近況を尋ねた。
「そっちはどう? 変わりない?」
「ええ、いつもどおりよ。昨日はお野菜が安くてね。つい買いすぎちゃった」
母はそこで小さく咳き込んだが、すぐに話を続けた。
「それでね、今朝は買ってきた野菜で煮物を作ったの。たくさんできたから、明日も食べられるわ」
「いいね。ちゃんと自炊してるなら安心だね」
「1人だと面倒な日もあるけどね。まあ、適当に好きなものを作って食べてるわよ」
そう言った直後、母が再び咳き込んだ。今度はなかなか治まらず、電話の向こうから何度も息を吸う音が聞こえてくる。
「お母さん、大丈夫?」
遥花は眉をひそめた。
