ようやく訪れた遅い休日

彩子がトラブルを収め、休暇に入ることができたのは、シルバーウィークも終盤に入ったころだった。

「うーん……よく寝た」

久しぶりにアラームをかけずに起きた。着信音を気にする必要もない。

窓から差し込む光を浴びながらコーヒーを飲んでいると、ここ数日間ずっと張りつめていた気持ちがほどけていくのを感じた。スマートフォンを見ると、翔太から何枚も写真が届いていた。観光地のランドマークに、宿の夕食、明らかに照れながら和俊と並んで撮った写真まである。

「楽しそう」

思わず微笑みながら、彩子は1枚ずつ眺めた。少し前まで届いた写真をゆっくり見る余裕さえなかった。

そのとき、翔太からまたメッセージが届いた。

「昨日の海鮮、めちゃくちゃうまかったよ」

「ずるい。今度は私も絶対食べるからね」

返信すると、すぐにニヒルな笑みを浮かべた猫のスタンプが返ってきた。

彩子はコーヒーカップを片づけると、思いつきで部屋の掃除を始めることにした。2人が帰ってくるのは明日の夕方。旅行をドタキャンしたことで、和俊にも翔太にも必要以上に気を遣わせてしまった。だからせめて帰ってきたときは、キレイな部屋で気持ちよく出迎えよう。

「よし、やるぞ」

まずはリビングから入念に掃除機をかけ、キッチンや洗面所などの水回りも徹底的に磨く。時間に追われず家事をするのも久しぶりだった。ひと通り終わってもまだ昼前だったため、彩子は普段後回しにしていた収納にも手をつけることにした。棚には、保険や税金関係の書類、古い説明書などがまとめて入っている。

「これ、もういらないよね」

1枚ずつ確認しながら仕分けていると、書類の束の間から見慣れない封筒が出てきた。何だろうと思って中身を取り出した彩子の手が止まる。

「え……借用書?」

何度読み返しても、そこに書かれている文字は変わらなかった。借り主の欄には、夫・森田和俊の名前がある。一瞬、何か自分が忘れているだけなのではないかと思ったが、やはり心当たりがない。

そもそも森田家の家計には、ある程度余裕がある。少なくとも借金をしなければならないほど困窮していない。

「何のために……?」

いくら考えても思い当たるものはなかった。静まり返った家の中に、時計の秒針だけが響いていた。

●久しぶりの旅行を直前になって仕事で諦め、夫と息子を送り出した彩子は、トラブル対応を終えて留守宅を掃除していたところ夫・和俊名義の見覚えのない借用書を発見。その借金には彩子の知らない事情があった…… 後編【「勝手に人のもの見たのか」掃除中に夫の借用書を見つけた妻…旅行帰りの夫が逆ギレした“事情”】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。