<前編のあらすじ>

連休を目前に、彩子は夫・和俊、大学生の息子・翔太との久しぶりの家族旅行を楽しみにしていた。ところが出発直前、会社からトラブル発生を知らせる電話が入り、対応に追われることになる。

彩子は旅行を断念し、和俊と翔太の2人だけで出かけてもらうことにした。家族を見送った彩子は、連休を返上して仕事を続ける。

トラブルを収めてようやく休暇に入った彩子は、2人の帰宅前に家を掃除することに。収納の書類を整理していると、見覚えのない封筒から借用書を発見する。借り主は和俊。家計に困っているわけでもないのに、なぜ夫が自分に黙って借金をしたのか、彩子は不安を募らせる。

●前編【「え…借用書?」家族旅行を仕事で諦めた妻…留守番中の大掃除で見つけた“夫の知られざる借金”】

秘密の借金を巡り夫婦が対立

夕方、玄関のドアが開く音がした。

「ただいま。いやあ、疲れた」

翔太が両手に旅行カバンと大きな紙袋を抱えて入ってきて、その後ろから和俊も姿を見せる。彩子は、なるべくいつも通り2人を出迎えたものの、頭の片隅には常に昨日見つけた借用書がちらついた。

「おかえり。楽しかった?」

「楽しかったよ。はいこれ、お土産ね」

そう言って翔太は紙袋をいくつもテーブルに並べた。

「あとさ、2日目に行った店が本当にうまくて。写真送ったでしょ?」

「見たよ。浜焼きのお店でしょう?」

「あれ、ママ絶対好きだと思う」

楽しそうに話す翔太を前にして、彩子も笑顔を返した。せっかくの旅行に水を差したくない。しばらく土産話を聞いたあと、翔太は大きくあくびをした。

「さすがに疲れたわ」

「うん。ゆっくりしてきなさい」

翔太がカバンを持って自室へ向かう。階段を上がる足音が遠ざかると、彩子はリビングの棚から借用書を取り出した。

「和俊、ちょっといい?」

「何?」

「これ、何?」

彩子がテーブルに置いた借用書を見た瞬間、和俊の表情が固まった。わずかな変化だったが、彩子は見逃さなかった。

「……どうやって見つけたんだよ」

「昨日、掃除してたら書類の中から出てきたの」

「勝手に人のもの見たのか」

「わざとじゃないよ。それより、何の借金なの?」

和俊は答えず、借用書を手に取った。

「大したことじゃない。すぐに返すから」

「そういうことを聞いてるんじゃない」

おのずと彩子の声にも力がこもった。

「返せるかどうかじゃなくて、どうして私に黙って借金したのか聞いてるの。こういうことは普通、事前に相談するでしょう?」

「今日は勘弁してくれ。帰ってきたばかりで疲れてるんだ」

その言葉に、彩子は眉をひそめた。シルバーウィーク中、自分は楽しみにしていた旅行に行けず、連休を返上して取引先との調整に追われていたのだ。

「疲れてるのは私も同じだよ。ちゃんと説明して」

「だから、問題ないって言ってるだろ」

「問題ない? 何を根拠にそれを信じろっていうのよ」

食い下がると、和俊は露骨に顔をしかめた。