会社の損失を背負わされた夫

「待って。会社で出た損失を、どうしてあなた個人が払うの?」

「俺もおかしいとは思ったよ」

和俊は低い声で答えた。

「でも、うちでは前から似たようなことがあってさ。はっきりと命令されるわけじゃない。ただ、断ればどうなるか分かるだろ、みたいな空気でさ」

部下を持つ立場なら責任を取るべきだと言われ、評価にも響くことを匂わされたらしい。若い部下に負担を押しつけることもできず、和俊は結局、自分で金を用意することを選んだ。しかし家計から出せば彩子に気づかれる。そこで、自分名義で借金をしたのだという。

「そんなの、いくら会社に言われたからって……」

「分かってる。でも、そのときは断れなかった」

「だとしても、せめて私には話してほしかった」

和俊はしばらくうつむいてから、小さく息を吐いた。

「悪かった。黙ってたことは謝る」

「一応言っとくけど、借金したこと自体も許したわけじゃないからね」

「分かってる」

昨夜とは違い、和俊は言い返さなかった。

彼の落ち込んだ様子を見ていると、彩子も責め続ける気にはなれなかった。和俊は、自分の知らないところで会社に追い詰められていたのだ。

そこで彩子は、ふと自分の数日間を思い返した。

「……私も人のこと言えないのかな」

「何が?」

「今回の旅行よ。取引先で問題が起きたからって、私は迷わず行くのをやめて仕事を選んだでしょう」

「彩子の場合は、トラブルが起きたんだから仕方ないだろ」

彩子はしばらく何も言わず、コーヒーカップから立ち昇る湯気を見ていた。和俊も黙り込んでいる。

「仕事だから仕方ないって、私もずっと思ってた。でも、本当にそれで済ませていいのかな」

「うん?」