出発直前に崩れた旅行計画
翌朝、彩子はいつもより1時間も早く会社へ向かった。
最初は、1日あれば何とかなるだろうと高をくくっていた。だが、いざ出勤して取引先や関係部署と連絡を取り始めると、その見通しはすぐに崩れた。
昼休みになって、彩子は和俊へ電話をかけた。
「和俊、ごめん。旅行行けなくなった」
「明日も出勤しろって?」
「うん。どう考えても今の状態じゃ休めない。本当にごめん」
和俊もしばらく黙ったあと、日程をずらせないかと言った。彩子も諦めきれず、2人で航空便やホテルの変更を調べてみた。しかし、シルバーウィーク直前のため空いている便は見つからず、ホテルも日程変更には対応できない。キャンセル料も、ほぼ100%かかる。
「今回の旅行は見送ろうか?」
「ううん、もったいないから2人で行ってきて」
残業で夜遅くに帰宅した彩子が事情を話すと、翔太は残念そうな顔をしたものの、すぐにうなずいた。いつの間にか聞き分けの良くなった息子に感心しながらも、彩子の胸には悔しさが残った。
「そっか、残念だね」
「ごめんね。パパと2人で楽しんできて」
「分かった。また今度3人で行こうよ」
「うん。今度は絶対ね」
◇
彩子はまだ薄暗い玄関先で和俊と翔太を見送った。
「気をつけてね。写真、送ってよ」
「分かった。彩子も無理するなよ」
「行ってきます」
2人を乗せた車が見えなくなると、周りから音が消えた。
仕事なのだから仕方がない。
彩子はそう自分に言い聞かせ、いつも通り身支度を整えて会社へ向かった。
