宙人が抱えていた言えない思い
「ママ、今日もおばあちゃんの家に行ったの?」
「行ったよ。まだ腰が痛いみたいだから」
「……そっか」
事故以来、宙人は妙におとなしかった。恵理が義実家へ行く話をすると、何か言いたそうにこちらを見ることもあった。だが恵理には、息子の表情をゆっくり確かめる余裕さえなかった。きっとあの日のことを反省しているのだろう。そう自分を納得させ、目の前の仕事を片付け続けた。
「ママ、元気ない?」
ある朝、恵理が夫の荷物をカバンに詰めていると、宙人が心配そうに顔をのぞき込んできた。
「ちょっとだけ疲れてるかなぁ。でも、大丈夫よ」
「ほんと?」
「うん、少し休めば平気。さあ、幼稚園行くよ。今日はおばあちゃんのところにも行かなきゃ」
そう答えて立ち上がったものの、身体がひどく重い。玄関に置いた荷物を両手で持ち上げながら、恵理は自分が限界に近いことを悟った。
◇
その日、恵理は玄関先で、知子に頼まれて事前に購入した日用品を布袋へ詰め直していた。忘れ物がないか確かめるだけでも、今日は妙に時間がかかる。肩は重く、どこか頭もぼんやりしていた。それでも、行かなければならない。
「ママ」
振り返ると、宙人が廊下の途中に立っていた。
「どうしたの? そろそろ家出るよ」
「……おばあちゃんのところ?」
「うん。幼稚園のあと、頼まれたものを届けてくるね」
宙人は何か言いたそうに口を開いたものの、すぐに閉じた。恵理は時計を気にしつつ、息子の様子がいつもと違うことに気づいて顔を覗き込む。
「宙人どうしたの? 何かあった?」
「あのね……おばあちゃんが転んだの、ぼくのせいじゃないよ」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「え?」
「ぼく、わがまま言ってない」
事故から何日も経っている。
どうして今になって、と戸惑いながらも、恵理は宙人と向き合った。
「どういうこと? ママに話してくれる?」
