<前編のあらすじ>

長男・常忠さん、次男・之博さん、3男・遥祐さんは、仲のいい3兄弟。遺産の相続をめぐって争いが起きないよう、「父が生きているうちから」遺産分割協議を行うことになった。

その内容は、「父が亡くなったら、常忠さんと之博さんが遺産を半分ずつ相続」し、「3男の遥祐さんは一切財産を相続しない」というもの。

経済状況が不安な長男・次男に対し、余裕のある3男が譲ったかたちだった。

だが、実際に父が亡くなると、3男は「やっぱり自分も相続する」と主張しはじめた。

長男・次男は、3男の心変わりに憤り、3兄弟は泥沼のトラブルに突き進んでいく……。

●前編:【「約束したじゃないか!」3男の裏切りに長男・次男がブチ切れ…「遺産はいらない」と言っていた3男が「やっぱりもらう」と宣言して起きた悲劇】

「話をひっくり返すのはおかしい」

常忠さんと之博さんは、遥祐さんを説得しようと、何度も次のような話を繰り返した。

「父が元気なうちに、3人で話し合ったはずじゃないか」

「遥祐は相続しないという件も納得していたはずだろう」

「今になって話をひっくり返すのはおかしい」

だがしかし、法律上、実はこれらの主張には大きな落とし穴があった。

それは、相続開始前に実施した遺産分割協議での合意は法的拘束力を持たない、という点だ。

つまり、長男・次男が「相続の話し合いは終わった」と主張したところで、法律上は3兄弟の遺産分割協議はまだ終わっておらず、これから改めて相続財産をどう分けるのかを話し合う必要があるのだ。

もちろん、事前の話し合いが全く無駄というわけではない。法的に有効でなかったとしても、あらかじめ話し合っておくことで遺産分割協議がスムーズに進んだり、被相続人の死後の混乱を抑えることができる。

また、遺言書を作る際に、相続人たちの意向を反映し、相続争いのない最適な遺言書を作るために役立つこともあり、完全に無駄なものではない。

ただ、今回のように、相続前から遺産の取り分を決めてしまい、それをもとに将来の設計をしていたりすると問題になってしまう。

実際に、この3兄弟の話し合いは困難を極めた。