<前編のあらすじ>
伸弥さんと早矢香さんは2人兄妹。今から10年ほど前、高校を中退した早矢香さんは派遣社員やアルバイトを転々としていて、お金に困っていた。そんな早矢香さんに、兄・伸弥さんはお金を貸していた。その額は累計で600万円にも上る。
ただ、伸弥さんにとって、妹に多額の借金を負わせて、人生の選択肢をせばめることが本意ではなかった。そのため、600万円の返済は不要だと早矢香さんに伝えていた。
その後、母親が亡くなり、2人はそれぞれ500万円ずつ相続することになった。
兄・伸弥さんは「500万円も入ったのだから、600万円の借金を少しでも返済してほしい」と思ったのだが、妹・早矢香さんはこれに反発。泥沼のトラブルへと発展してしまう……。
●前編:【「借金600万円」を踏み倒す妹…「遺産を相続したなら少しでも返してほしい」という兄が直面した壁】
法的には返済の必要はない
この時の心情について伸弥さんは「自分の善意を妹に利用されたように感じてしまった」と語っている。
一方、早矢香さんからすれば、母の死と遺産にかこつけて過去の話をほじくり返してきたように思ったのだろう。
つまり、同じ出来事でも、兄と妹では見えている景色がまったく違っていたのだ。兄妹間での関係が冷え切るには十分な理由だった。
ちなみに伸弥さんが借金返済の話を蒸し返したことは、法的には正しい行為なのだろうか。
あくまで原則論だが、借金は貸した側が「もう返さなくていい」と言えば消滅する。
つまり、伸弥さんが早矢香さんに、何の条件も付けずに「600万円は返さなくていい」と伝えていたのであれば、その場で借金は消滅していたことになる。
その後早矢香さんにまとまったお金が入ろうが、収入が増えようが「やっぱり返してくれ」とは言えないのだ。相続で500万円のお金を得てもその結論は変わらない。
私が伸弥さんにこの点を説明すると、彼は「法律的にはそうなんだろうな、理解はできるよ」と答えた。
ただ、感情として納得できるかどうか別の話だという。
「けど、妹にはお金がなかったから諦めたんだよ。それなのに、その直後にまとまったお金が入ったなら、誰だって考えが変わったりするもんだろ」
伸弥さんの言っている話は完全な感情論だが、私も気持ちは分かる。
ただ、タラレバの話を持ち出すとキリがなくなる。伸弥さんの「返さなくていい」という発言が本当に無条件での返済免除を約束したものだったのか、それともそうとは言えなかったのか。具体的な言葉や当時のやり取りによって、判断が変わることもあり得る。
とはいえ、そこまで争いはじめると、兄妹の関係はもっと泥沼化してしまう。
だからこそ、私は伸弥さんにこういった。
「家族間でも、お金の貸し借りとか重要なことは口約束にしちゃだめだよ」
すると伸弥さんは「そうだな……」と返事をした。
