「600万円のことはもうどうでもいい」
それからおよそ10年が経った。この話を記事化するにあたり、許可を得るため、私は久方ぶりに伸弥さんと再会した。
相変わらず妹の早矢香さんと連絡は一切取れないらしい。
「たった2人だけの家族のはずなんだけどな」
伸弥さんが寂しそうにそう言う。私は何も言えなかった。
伸弥さんは「600万円のことはもうどうでもいい。妹とこういう関係になってしまったことのほうが残念だ」と言っていた。
もちろん、兄弟姉妹間でお金の貸し借りを絶対にしていけない、という話ではない。
むしろ、困っている家族を助けるためにお金を貸すことは大変立派な行為だ。
私が真に伝えたいのは、貸したお金について、軽い気持ちで返済を免除してはいけないということだ。
伸弥さんも、「生活が安定するまでは返済を求めない」とか、「将来、まとまった財産を取得した場合には、改めて話し合う」といった形にしていれば、また違う結果になっていたことだろう。
人生の状況は日々、様々なことをきっかけに変わっていく。
今は収入がなくても、数年後には安定して働いているかもしれない。
今は貯金がなくても、相続などによってまとまった財産を得るかもしれない。
だからこそ、何円だろうと借金を免除する判断は慎重にするべきなのである。
家族を助けたい。その気持ちは痛いほどわかる。
だがしかし、家族だからこそ、お金の問題がこじれたときの傷も深くなる。
一時の感情で「返さなくていい」と言う前に、本当に二度とそのお金が戻ってこなくても、自分は納得できるのか。後悔することはないのか。考えたうえで決めることが、結果として家族の関係を守ることにもつながる。そのことをぜひ知っておいてほしい。
※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。
