日本製鉄によるUSスチール買収後、足元では米国の鋼材市況や関税政策などの追い風を受けて利益を押し上げています。しかし、巨額投資の真の成果や今後のリスクを見極めるには、決算の数字を表面的に追うだけでは不十分です。いま大注目の銘柄について、つばめ投資顧問代表の栫井駿介さんが解説します。
※本記事は8/19につばめ投資顧問にて公開された「日本製鉄の株価は今後どうなる?USスチール買収の成果と投資リスクを分析」を編集の上、栫井氏による特別コメントを付して掲載しております。
決算数字を見る前に、投資家が持つべき「たった一つの疑問」
USスチールの好業績が、市況によるものなのか、日本製鉄の改革によるものなのか。決算資料のどこを見れば区別できるか―この質問に対して、私はまず「特定の数字を見れば明確に区別できるわけではない」と答えたいと思います。
それ以上に大切なのは、良い数字や悪い数字を見たときに、「なぜ、この数字になったのか?」と疑問を持つことです。
今回、USスチールが第1四半期だけで322億円の利益を稼ぎ、日本製鉄の海外利益の半分以上を占めました。
これだけを見ると、「日本製鉄が買収して、早くも経営改革が成功した」と考えたくなります。
しかし私は、まず違和感を持ちました。
USスチールはもともと老朽設備など多くの課題を抱えていた会社です。それが買収後、短期間で劇的に変わるものなのか。そこで、「これは実力なのか、それともたまたまなのか」と考えました。
決算資料や市況を確認すると、米国ではホットコイル価格が上昇しており、同業他社の業績も改善しています。記事でも、足元の利益改善には米国の鋼材市況が大きく影響していると分析しています。
ここから、市況という外部要因の影響はかなり大きいと考えることができます。
一方で、「では日本製鉄の自助努力で何億円増えたのか」と聞かれても、これを決算数字から正確に切り分けることは現実的には困難です。
そこで次に見るのが定性的な情報です。現時点では、日本製鉄は100人規模の技術者をUSスチールへ派遣し、設備更新や生産性向上に取り組み始めています。
つまり、改革は始まっている。しかし、現時点ではそれ以上の情報は見当たりませんでした。しがたって、成果が本格的に数字へ表れるのはこれから、と見るのが自然でしょう。
投資では、すべてを数字で証明できるわけではありません。だからこそ大切なのは、自分なりの「追うべきストーリー」を持つことです。
今回なら、「日本製鉄によるUSスチール改革は本当に成功するのか」。
この問いを頭に置いておけば、今後出てくる稼働率、コスト、生産性、高付加価値品の比率などの変化にも気づきやすくなります。重要なのは、今の時点で答えを決め打ちすることではありません。
数字を見て終わるのではなく、「なぜ?」から次の問いをつくる。それこそが、投資家にとって最も重要な決算の読み方です。
