「自分が代わりに受け取れるはずだ!」

ところが、敏郎さんの父である敏一さんはそのように受け取らなかった。

敏郎さんが若くして亡くなったことで、財産を相続できないことに納得がいかず、敏一さんは、兄である駿夫さんに対してこう主張したのだ。

「敏郎は亡くなってしまったが、本来ならそろそろ就職していてもおかしくない時期だった」と。それに対し「そうだな……」と同意する駿夫さん。
そこに敏一さんは「もし敏郎が生きていれば、遺言どおり100万円を受け取れていたはずだ」と続ける。やや困惑しつつ、駿夫さんは「ああ、きっとそうだろう、あいつなら公務員だろうが大手だろうが行きたいところに行っただろうな」と同意した。
そこで敏一さんは鬼の首を取ったかのようにカッと目を見開き、強い言葉でこう言った。

「それなら、その分は親である自分が代わりに受け取れるはずだ!」

本来、敏郎はいまごろ社会人になっていて、祖父から就職祝いを受け取っていたはずだ。

そう考えたくなる敏一さんの気持ちは、人情としてまったく理解できないわけではない。

しかし、相続はそうした感情論だけで決まるわけではない。

兄弟間の争いに発展

敏郎さんが相続するはずの分を、代わりに敏一さんが相続することもあり得る。

相続には代襲相続と言って本来の相続人に代わって相続できる制度もあるからだ。

ただ、遺言書の条件は「敏郎が就職していれば」というもので、敏郎さんが就職前に亡くなった以上、遺言書の条件は成就していない。

ゆえに、そもそも敏郎さんに俊二さんの財産を相続する権利がないため、敏郎さんの親である敏一さんが代わりに受け取れる財産はないと考えられる。

兄の駿夫さんは法律知識が豊富なわけではなかったが、敏一さんの意見に強い違和感を覚えた。

「条件が満たされていない以上敏郎が受け取るはずだったものを、敏一が代わりにもらうというのはおかしくないか?」と反論した。
だが、敏一さんはすでにヒートアップしており、正論を言われても簡単に納得するはずもなかった。

こうして、100万円の条件付き記載をきっかけに、兄弟間の争いへと発展していったのだ。

●駿夫さんの選択が混乱に拍車をかける……。後編【「家庭裁判所に訴える」「内容証明を送る」の応酬…「100万円の相続」を争い兄弟の絆が崩壊した結末】では、条件付き遺言書のより良い書き方について解説します。

※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。