ボーナスをめぐるすれ違い
午後、宏隆が作家へ送る資料を確認していると、机の上のスマートフォンが震えた。画面には、茉莉からのメッセージが表示されている。
「ボーナス入るのっていつ?」
宏隆は一瞬、手を止めて卓上のカレンダーを見た。
そう言えば茉莉の勤務先では、今日が夏のボーナスの支給日だったはずだ。前職では宏隆も毎年同じ時期に支給されていたため、ついでに口座を確認したのだろう。
「うちは出ないよ」
そう返し、宏隆は資料へ目を戻した。数分後、再びスマートフォンが震えた。
「出ないって、今年はってこと?」
「いや、賞与制度がないから」
既読はすぐについたが、それ以上の返信はなかった。
宏隆は少し気になったものの、打ち合わせの時間が迫っていたため、スマートフォンを伏せた。
その夜、宏隆が帰宅すると、リビングのソファに茉莉がじっと座っていた。テレビは消され、テーブルの上にはスマートフォンだけが置かれている。
「ただいま」
「おかえり」
声を聞いただけで、機嫌が悪いことは分かった。宏隆は鞄を下ろし、恐る恐る茉莉の向かいに座った。
「どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ。ボーナスがないなんて、私、初めて聞いたんだけど」
「そうだったっけ」
「聞いてないよ。給料が下がるとは聞いた。でも、ボーナスがまったく出ないとは聞いてない」
茉莉の口調は抑えていたが、その分、怒りがはっきりと伝わってきた。
