涼しさの代わりに

友達の家から帰ってきた芽依も新しい扇風機には全く納得をしてくれなかった。

「美香ちゃんちはクーラーが効いてて涼しかったのに! もうずっと美香ちゃんちに居ればよかった!」

リビングに入るや、そう文句を言っていた。

「仕方ないでしょ。ちゃんとクーラーは買うんだから。でもどうしてもあと1カ月は待たないとダメなのよ」

「無理! 1カ月も待てない! 暑くて死んじゃう!」

「大丈夫だから。夜になったら涼しくなるからね」

そう言って芽依の文句をやりすごし、未来は晩ご飯の準備に取りかかった。窓を開けて網戸の状態にしているが、それでも気休め程度だ。料理をしていると暑さで汗が噴き出してきた。

「――きゃああああ!」

未来が汗を拭きながら味噌汁を作っていると、リビングから芽依の叫び声が聞こえてきて、思わず火を止めてリビングに顔を向けた。

「どうかしたの⁉」

「虫が入ってきた!」

芽依の言葉に未来がリビングに向かうと、照明の周りを確かに黒い虫がぶんぶん飛んでいた。

「おかあさん、早くやっつけて!」

そう言われて未来は棚から殺虫剤を取り出して虫に吹きかけた。すると、たちまち虫は元気をなくしたので、未来は虫をティッシュで包みゴミ箱に捨てた。虫は無事に退治したが、芽依の怒りは収まらなかった。

「もう窓閉めてよ!」

「でもそれじゃ暑いままだよ?」

「虫はやだ!」

虫が苦手な芽依は叫んだ。

仕方なく窓は閉め切り、蒸し暑い部屋で過ごすことを余儀なくされた。扇風機は一生懸命、首をまわして風を送ってくれているがあまり効果はなかった。未来は「こんなことなら夏前にエアコンの調子をちゃんと見ておくんだった……」と汗を拭きながらため息をついた。