初節句が不穏な空気に
「あんな、キャラクターものの兜飾りなんてちょっとねぇ。かわいいと思うわよ。でも初節句にあんなんじゃちょっと安いっぽい気がするでしょう」
柔和な言葉遣いではあるが、明確にこちらを見下しているのが伝わってくる物言いだった。
「でも安心してね。ちゃんとこっちで璃空のために用意しておいたから」
そう言うと、真理子はさっき良太郎が運んできた大きなボストンバッグを開けて中から兜を取りだした。そのための荷物だったんかい! 楓は頭を抱え、心の中で絶叫する。どうしてこの人は、こうも次から次へと余計な行動を思いつくのだろう。
「きっと兜飾りなんてやってないだろうと思ったから、昔に裕太が使ってたのを家から持って来たのよ。……まあちゃんと兜飾り自体はやってたけど、あれじゃ飾ってないのと一緒みたいなもんだから」
そう言うと真理子は楓が飾っていた兜を勝手にどかしはじめ、自身が持ってきた兜を置いた。
「ほら、立派な兜があったほうが璃空も嬉しいでしょう」
真理子は飾った兜を見て満足そうにうなずいた。
確かに元あったものと比べればふた回りは大きい兜飾りの見た目は立派そのもので、初節句の飾りとしては見栄えがいい。だが柔らかなトーンが多い他のインテリアのなかでは浮いていたし、なにより意匠のあちこちが鋭利に尖っていて危険そうに見えた。
「……お義母さん、お気持ちはありがたいのですがそこに飾るのはちょっと危ないと思います。ですので別のところにしたほうが良いのではないでしょうか?」
「あら、何を言ってるの? リビングに飾るのが一番いいに決まってるでしょ? 他にどこがいいって言うのよ?」
「別の部屋に飾れるところを作りますので、そちらにしませんか?」
しかし真理子は激しく首を横に振った。
「そうやって見えないところに隠すつもりでしょ? そういう嫌がらせみたいなことはやめてほしいわね? 私は璃空のことを思ってやってあげてるの? わざわざ家から持って来てあげたっていうのにその気持ちをむげにするもんじゃないわ」
真理子は声を荒げているわけではないが、楓は圧力を感じた。
「……わかりました。とりあえずお二人ともゆっくりされてください。お茶を今から出しますので」
楓はこの件は後回しにすることにした。何も今ここで揉める必要はない。帰ったあとで絶対しまってやるからな! 楓は笑顔でお茶をいれながら、おせっかいな義母といかめしい兜に向けて心の中指を立ててやる。
