明かされた500円の秘密

夕方、玄関のドアが開く音がした。遥香はキッチンで米を研いでいた手を止め、顔を上げた。

「ただいま」

「おかえり」

実桜はショルダーバッグを肩にかけたまま、ぱたぱたと足音を立てて部屋に入ってきた。

「楽しかった?」

「うん、楽しかった」

短く答えながら実桜は遥香に近づき、少し迷ってから、手に持っていた小さな紙袋を差し出した。

「お母さん……これあげる」

「え、お母さんに?」

「母の日だから」

一瞬、意味が分からなかった。遥香は紙袋と実桜の顔を交互に見た。

「母の日?」

「そう。1日早いけど」

実桜は照れたように視線をそらした。遥香がゆっくり袋を開けると、中に入っていたのは、淡い色のハンカチだった。端に小さな花の刺しゅうがあり、畳まれたハンカチの上には、小さなメッセージカードがちょこんと乗っている。カードには、普段よりも少し余所行きな実桜の丸文字で「いつもありがとう」と書かれていた。

「ありがとう。びっくりした」

「ゴールデンウイーク明けに学校で、莉奈たちと母の日どうするって話になったの。それで、じゃあ土曜日に一緒に買いに行こうってなって」

小遣いをねだった理由が、そこでようやくつながった。何に使うのか聞いても言わなかったのは、無計画に買い物をしたかったからではない。母の日のプレゼントを、内緒にしたかったからだった。

「だから、言わなかったの?」

「うん。サプライズにしたかったから。それなのにお母さん、すぐ何に使うのって聞くんだもん」

わざと拗ねたように口をとがらせる実桜を見て、遥香はハンカチをそっと指でなぞった。

「ごめん。お母さん、ただ遊びに使いたいんだと思ってた」

「まあ、遊びもしたけどね」

「そこは正直だね」

「でも、これ買うのがメインだから」

そう言って実桜は笑った。遥香も微笑み返そうとして、うまく笑えなかった。嬉しさと申し訳なさが同時に込み上げてきて、喉の奥が熱くなる。

「すごく嬉しい。ありがとう、実桜」

「うん、高いやつじゃないけどね」

「値段の問題じゃないよ。本当に嬉しい」

「お花じゃなくてよかった?」

「うん、お花もいいけど、こうやって形に残るものが嬉しいよ」