<前編のあらすじ>

友人との外出のために追加の小遣いを要求してきた小学5年生の娘・実桜に遥香は、「今回だけ」と500円を渡したが、後日になって実桜が再び追加の小遣いをねだってきた。

使い道を話さない実桜に理由も分からないままお金を渡すことはできないと遥香は断固拒否。口論の末、実桜は「お母さんには分からない」と言い放って自室に引きこもってしまう。

その後、「あいつなりに頑張っているのではないか」という単身赴任中の夫の言葉に、遥香は自分の頑なな態度を反省し、条件付きで娘を信じてみようと決意するのだった。

●前編【「お母さんには分からない!」小5愛娘の拒絶に絶望…追加小遣いをめぐる不可解な秘密とは

娘の背中を見送る母

翌朝、実桜はいつもより早く起きてきた。遥香が朝食の皿を片づけていると、実桜は鏡の前で何度も前髪を直している。

「今日、何時集合?」

「10時半に駅前」

「そう」

会話はそこで途切れた。実桜はダイニングの椅子に座り、ショルダーバッグの中を確認している。ハンカチ、ティッシュ、財布。1人で身支度を整える姿は、少しだけ大人びて見えた。

やがて遥香は財布を手に取り、実桜の前に立った。

「実桜」

「なに」

呼びかけると実桜は警戒したように顔を上げた。昨日の続きが始まるとでも思ったのか、肩に少し力が入っている。

「これだけ渡しとく」

「えっ、いいの?」

実桜の声が上ずった。喜びたいのをこらえているような顔だ。

「その代わり、本当に今回限りだからね。来月は一切追加なし」

「うん」

「約束だよ」

「うん、約束する」

実桜は小さくうなずき、500円玉をそっと手に取った。大事そうに財布へしまう仕草がいじらしい。

「もう5年生だし、何もかも親に話せっていうのは無茶だって分かってる。でも、お金の使い道とか、大事なことを秘密にされるとお母さんが心配になることは覚えておいて」

「うん」

「それでも今回は、実桜を信じることにする」

「……ありがとう」

実桜は靴を履き、ショルダーバッグを肩にかけた。玄関のドアを開ける前に、ちらりと遥香を振り返る。

「行ってきます」

「気をつけてね」

「うん」

軽く手を振りながら実桜が出ていく。ドアが閉まったあとも、遥香はしばらくその場に立っていた。