将来への恐怖から極限まで入金力を高め、目の前の幸福を犠牲にしてしまう「NISA貧乏」が話題です。公的年金への不信感と物価高騰が続くなか、NISAを通じた資産形成は老後の安心を確保する手段の1つとなりました。しかし、その「自衛」への思いの強さが、いつの間にか自分や家族を追い詰めてしまうケースもあるようです。

「NISA貧乏」で世帯年収900万円でもカツカツの日々

「これ、来月の光熱費。足りない分、あなたの給与から出しておいて」

リビングのテーブルに叩きつけられた請求書。妻・真由美(38歳)の冷え切った声が、夕食のカレーの匂いをかき消した。

僕は年収800万円の中堅メーカー勤務。真由美も扶養枠ギリギリの年収100万円でパートに出てくれている。世帯年収は900万円で、世間一般では「勝ち組」に近い部類かもしれない。だが、我が家の実態は、豊かな未来という「幻」を買い支えるために、今の幸福を閉じ込めた「家計の檻」だった。

「公的年金なんて、俺たちの世代はもらえても雀の涙だよ。信じられるのは、自分で積み上げた数字だけだ」

2024年、新NISAの開始とともに、僕は憑りつかれたように資産形成にのめり込んだ。

年間上限360万円の投資枠をなるべく早く埋めたい——倹約生活で浮かせたお金のほとんどが証券口座へ吸い込まれていく。

世間では、僕のような状態を「NISA貧乏」と呼ぶらしい。本来、NISAは余剰資金で賢く備えるための制度だ。だが当時の僕は、不安という魔物に追い立てられていた。今の生活の豊かさをすべて燃料としてくべ続けていたのだ。