若手は宝、中堅はコスト? 会社が下したあまりに冷酷な選別

異変は、今春の労使交渉から始まった。

「若手の離職を防ぐため、初任給を5万円引き上げる」

社長の号令とともに、新卒の給与は跳ね上がった。一方で、私たち中堅以上の給与は「微増」にとどまった。会社側の理屈はこうだ。「原資には限りがある。未来への投資を優先する」。

その「投資」のしわ寄せは、ダイレクトに私を直撃した。

若手の給料を上げた分、会社はコストカットに躍起になった。まず削られたのは、私たちの残業代と外注費だ。これまで協力会社に振っていた事務作業やトラブル対応が、すべて「内製化」という名の美辞の下、中堅社員の肩にのしかかってきた。

「佐藤さん、これ、河野くんじゃ無理そうなんで、やっといてもらえます?」

上司は悪びれもせず、山のような書類を私のデスクに置く。河野は定時になると、「あ、今日マッチングアプリの子と飲みなんで」と、軽やかに帰宅していく。彼の高い給料を捻出するために、私はサービス残業をこなし、彼のミスをリカバーする。

中堅社員を待ち受けていた「コストカット」の嵐

ある夜、深夜2時に帰宅して、暗いリビングで家計簿を開いた。

住宅ローンの返済、子供の塾代、高騰する光熱費。私の手取りは、10年前とほとんど変わっていない。いや、社会保険料の増額を考えれば、実質的には減っている。

妻は寝室で、疲れ果てて眠っている。

「パパ、今度のお休みは遊園地行ける?」

机に置かれた息子の手紙が、今の私には呪詛のように感じられた。

若手は「賃上げ」の恩恵を謳歌し、ブランド物の服を買い、SNSに豪華な食事をアップしている。そのキラキラした生活の裏側で、私は彼らの給料を支えるための「無料の労働力」として消費されている。

私たちが積み上げてきた経験やスキルは、一体何だったのか。

13年間の努力は、新入社員の「期待値」よりも軽いのか。

暗闇の中で、スマートフォンの画面が光った。河野のSNSのストーリーだ。

《初任給で高級焼肉! 会社最高!w》

乾いた笑いが漏れた。涙は出なかった。ただ、胸の奥で何かが「パキリ」と音を立てて割れたことだけは分かった。

●会社のために、若手のためにと自分を犠牲にしてきた13年間。しかし、その献身に対する会社の答えは「賞与減額」という裏切りでした。我慢の限界を超えた佐藤さんが、泣きつく後輩に言い放った一言とは――。後編【「最高評価でも賞与10万円減」若手の賃上げのために削られたベテランの血肉…泣きつく新卒に36歳男性が放った「残酷な一言」】で詳説します。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。