今、多くの企業が「初任給の引き上げ」による人材確保に動いています。しかし、その急速な賃金体系の変化が思わぬところで現場の歪みを生んでしまうことも。
特に深刻なのが会社の中核を担う中堅社員への影響です。若手の指導を行い、リーダーとしての重い責任を背負う。しかし、報酬面では報われない。そんな葛藤の中で仕事への誇りや組織への信頼を失う人が増えているのです。
「若手への投資」という大義名分の裏側で中堅層が強いられる負担とは、一体どのようなものなのでしょうか。
積み上げたスキルの価値は、わずか「月3万円」
「え、僕の給料、佐藤さんと3万円しか変わらないんですか? 思ったより夢がないっすね」
居酒屋の脂ぎったテーブルで、今年の新入社員、河野がケラケラと笑いながら言い放った。その瞬間、喉を通ろうとしていた生ビールの苦みが、一気に胃の底まで焼け付くような不快感に変わった。
私は佐藤健太、36歳。中堅の不動産管理会社でリーダー職を務めて13年目になる。
「ああ、まあ、初任給が上がったからな……」
精一杯の虚勢を張って答えたが、視界がかすんだ。河野の給与明細は、最近の「賃上げブーム」の波に乗り、ベースアップで月28万円。対する私の月給は、役職手当を含めて31万円。
13年のキャリア、数えきれないほどのクレーム処理、泥臭いドブ板営業の果てにたどり着いた私の現在地は、昨日入ってきたばかりの若造と、たった「3万円」の差でしかなかった。
