博樹が切り出した本題

「……実はもう1つ話したいことがあって」

博樹はうつむきながら口を開いた。

謝りに来たのはもちろんそうなのだが、本題は他にもあった。長く付き合うにあたって、どうしても避けられない話題があったのだ。

「……それと今後のことを話したいと思ってるんだ」

「別れるってこと?」

「ち、違うって。そんなんじゃない。でもこれから俺はずっと百合子と一緒にいたいと思ってる。でもそのためにはどうしても金銭的な部分は解決しておきたくてさ……」

そう言うと百合子はため息をついた。

「デート代を払えってことね」

「百合子も同じ会社に勤めてるから給料は分かってるだろ? 今の収入だとデートは割り勘じゃないと厳しくてさ……」

百合子は首を横に振る。

「イチゴ狩りに行きたいと言ったのは確かに私よ。でも夕食はもっとリーズナブルなファミレスでもよかったと思う。別に高いところに連れて行ってほしいわけじゃないし」

「でもさデートに行くんだし、それなりのところに連れて行きたいとは思うじゃんか。雰囲気のいいところとか、美味しいところに行って、そこで百合子と思い出を作っていきたいんだ。でもそうなるとどうしてお金がかかるから……」

「私はデートのために化粧をしたりとか、いろいろとお金をかけているのよ。割り勘にするって言うのなら、そっちも半分出してくれるって言うの?」

百合子に反論されて博樹は言葉に詰まる。

確かにメイクのことなどは一切考えたことがなかった。

「お金がどうとかを文句言ってるわけじゃないの。でも昨日のあのタイミングでデート代を払えって言われたのがどうしても許せなかったのよ」

「……ごめん。次からはもっといいデートを考えるから」

百合子は顔をしかめて首を横に振った。

「違うって。そうじゃないって言ってるじゃない」

話がかみ合わないことに苛立ちを覚えて、博樹は胸の内にあった言葉を出してしまった。

「でもさ俺はレンタカーのお金は請求してないんだ。こっちもそういうところは配慮してるってのは考えてくれよ」

博樹がそう言うと百合子の表情がこわばった。瞬間的に何かマズいことになったと博樹は感じた。百合子はそのまま立ち上がり財布から1万円を取り出して博樹に差し出してきた。

「……分かった。じゃあこれだけ払う。これで満足? だったら帰ってもらえる? 明日も早いからさ」

それだけ告げて、百合子は台所で夕飯の準備を始めてしまった。そこからは博樹が何を言っても応じてもらえず、博樹は1万円を握りしめて帰るしかなかった。百合子の家を出て、最寄りの駅まで歩いて向かいながら大きなため息をついた。