離婚後に直面した1人暮らしの現実
明子が家を出ていってから、拓郎はとうとう部長に離婚の報告をすることにした。プライベートなことなので報告義務なんてものはないが、人事部へは保険などで書類を提出しないといけないので、そこから部長の耳に入る可能性があった。だったらその前に自ら報告をしようと思ったのだ。
「ええっ⁉ ……そ、そうなのか。意外だな……ま、まあいろいろあるだろうが何か困ったことがあったら相談してくれ。それと辛いとは思うが仕事は頑張ってくれよ」
驚く部長に拓郎は頭を下げて自分のデスクに戻った。自分の人生に汚点がついた。そしてそれを人に知られたことも屈辱的だった。
その日は仕事を終えていつも通り家に帰った。当然、玄関を開けるがいつも出迎えてくれた明子の姿はない。30年ぶりのひとり暮らしだった。
拓郎はそのまま洗濯かごに汚れものを入れて部屋着に着替えた。しかし食事は用意されていない。
拓郎は舌打ちをして部屋着のまま外に出てアジフライやパックのご飯などを買って帰った。レンジで温めて食べようと思ったのだが醤油がないことに気づき、拓郎はキッチンに向かった。キッチンに行けば見つかると思ったが拓郎は調味料がどこにあるのかを全く把握していなかった。
あらゆる棚をひっくり返してみてようやく見つかったのだが、ただご飯を食べるためにこんなに労力がいるのかと辟易した。
何をやるにもいちいち時間がかかった。明子がいなければ何もできない――突きつけられる事実を拒もうとして、拓郎はストレスを溜めこんでいった。
