ルールを決めよう
「それからね、祐太が買い物をするときに使ったお金は、お父さんとお母さんが働いて稼いだお金なの。キャッシュレスだと、お金が減ってるって感覚があまりないけど、深く考えずに使われちゃうのは悲しいな」
そう言うと、祐太はぽつりと「ごめんなさい」と呟き、もう友達に奢るのはやめると約束してくれた。ひどく落ち込んだ様子の祐太に向かって、彩香はある提案をした。
「これからはさ、一緒にルール決めない?」
「ルール?」
「たとえば、1か月にチャージできる上限を決めるとか、どんなことに使っていいかを決めておくとか」
祐太はしばらく考えたあと、小さくうなずいた。
「わかった。やってみる」
その後、帰宅した夫にも話し、3人でリビングのテーブルを囲んで改めてルールを決めた。
・チャージは月5,000円まで
・使っていいのは交通費と文房具、塾で必要なもの
・友だちに買ってあげるのは禁止
祐太は決まったルールを丁寧に紙に書き、最後に自分の名前と日付を書いた。ちょっとした誓約書のようで、なんだかおかしい。一体どこで覚えてくるのだろう。
「この紙、冷蔵庫に貼っておこうか」と冗談交じりに言うと、祐太は「うん、それなら忘れないね」と応じた。ここで本気にするのが、祐太らしい。静かに流れる夜の時間のなかで、彩香は大きく息をついた。