<前編のあらすじ>
彩香には小学5年生になる一人息子・祐太がいる。一言で言えば手のかからないよくできた子だった。ちょうど受験勉強に励んでいるが、志望校も通いたい塾も祐太が自分で選んできたものだった。フルタイムで働いている彩香は手のかからない息子に、「ありがたい限り」そう思っていた。
しかし、ある日、そんな息子に不安を抱かざるを得ない出来事が起こる。同じ塾に通う別の保護者から、祐太がスマホを使い子供たちに「おごりまくっている」と教えられたのだ。
連絡手段に、と息子に買い与えたスマホのチャージ金額を見ると1月に3万円近く使い込んでいることがわかった。
彩香はそれとなく祐太に聞いてみるのだが、はぐらかすような返事ばかりが返ってくる。彩香は母にも相談し、再度祐太と話し合いをする決意をする。
前編:塾も志望校も自分で選んできて 手のかからないはずの小5が買い与えたスマホを使って起こしていたトラブル
思えば息子のことを知らなかった
祐太の顔を思い浮かべながら、彩香はふと思った。
——私は、あの子の何を知っているんだろう。
思えば、最近の祐太はずいぶん「おとな」だった。彩香が仕事で帰りが遅くなっても、1人で宿題を済ませ、文句ひとつ言わずに夕飯も温め直して食べてくれる。塾の課題も自分で管理して、週末の模試のスケジュールまでしっかり把握している。何度「助かってるよ」「えらいね」と口にしたことだろう。
しかし、それは、彩香の都合だったのかもしれない。フルタイム勤務の合間に家事や学校行事をこなす日々。夫は彩香よりもさらに多忙で家を空けることも多い。自分なりに精いっぱいだったとはいえ、気がつけば、彩香は祐太の心に目を向ける余裕を失っていたように思う。
もちろん、祐太に非があるわけじゃない。むしろ、あの子はきっと気づいていた。彩香が忙しいことも、疲れていることも。そして、「自分が頑張れば、お母さんはもっと楽になる」という事実も、どこかで察していたのだと思う。
そう考えると、胸がぎゅっと締めつけられた。祐太の「大人びた言動」は、もしかしたら、彼なりの思いやりの表れだったのではないか。それを彩香は、息子の成長の象徴として、ただ享受してきた。おごってることだって、誰かを喜ばせたい気持ちの表れだったのかもしれない。