製造業の国内回帰が加速。その理由は?

製造業の国内回帰、または国内工場の増強が加速している。この背景としては終息の兆しが見えない新型コロナウイルスのパンデミックやロシアによるウクライナ侵攻といった地政学的なリスクや経済安全保障への影響、部品供給不足によるサプライチェーンの分断、海外での人件費の高騰などの理由が複雑に絡み合っていることが挙げられる。コロナ禍以前から続く、米中の貿易対立によるチャイナリスクなども一因とされ、さらに円安が製造業の国内回帰を後押ししている格好だ。刻一刻と変化する経済情勢から製造業の国内回帰の現状を読み解く。

半導体関連企業の国内工場の増強が相次ぐ

自動車業界など多くの業界で半導体不足によるサプライチェーンの混乱が生じ、生産活動が停滞した。そんな中、世界的な需要増と凋落した「日の丸半導体」の再生を目指そうと経済産業省が半導体戦略を打ち出したこともあり、半導体関連企業の国内工場の増強が加速している。

ルネサスエレクトロニクスは、2014年10月に閉鎖した甲府工場(山梨県甲斐市)に900億円規模の設備投資を行い、パワー半導体生産ラインとして、24年に稼働再開させることを目指す。脱炭素社会の実現に向けて、電力の供給や制御を担う高効率なパワー半導体の需要が今後世界的にますます高まると見込む。京セラは、有機パッケージや水晶デバイス用パッケージなどの半導体部品の増産に伴う生産スペース確保を目的に、鹿児島川内工場に新工場棟を建設し、23年の稼働開始を目指す。投資総額は約625億円に上る。SUMCOは300mmシリコンウエハーの国内生産体制の増強に総額2287億円を投資する。

半導体業界以外でも、SUBARU(スバル)が国内自動車メーカーとして初となる電気自動車(EV)専用工場を大泉工場内に新設するほか、生活用品を手掛けるアイリスオーヤマは岡山県瀬戸内市に国内10工場目となる「岡山瀬戸内工場」を新設する。こういった国内競争力の強化を目的とした大型の国内投資が相次いでいる。

国内回帰・国内増強の背景には政府の財政的な後押しもある。コロナ禍以降、国内の生産拠点での円滑な供給を確保するなど、サプライチェーンの強靭化を目的とした経済産業省の「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金」は、20年度第1次補正予算以降、計約5000億円を確保するなど、継続的な国内投資を促進している。今年の4月には3次公募を行っており、製造業への支援の手を緩めない。