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インデックス投資から始めた顧客を「思考する投資家」へ導くために ――対面営業を主体とする投信販売会社・本部投信担当者に求められる視点――

中村 裕己
中村 裕己
NTTデータ エービック P&Cオフィス シニアアナリスト
2026.05.29
会員限定
インデックス投資から始めた顧客を「思考する投資家」へ導くために ――対面営業を主体とする投信販売会社・本部投信担当者に求められる視点――<br />

インデックス投資は入口として「適切」、でも、それで十分でしょうか

「投資初心者にはインデックスファンドが適している」
「低コストのインデックスファンドを積み立て、あとはほったらかしでよい」

こうした説明は、いまやインターネット上では定説に近い扱いになりつつあります。
書籍、SNS、動画配信などを通じてこの考え方が広まり、実際にインデックス投資から資産運用を始めた投資家も数多く存在しています。

投資を始めようとする投資家が、まずインデックスファンドを選択することは、金融機関としても否定するものではないでしょう。

しかし、本稿で問いかけたいのはその次の段階です。
インデックスファンドで運用を始めた投資家が、数年にわたって相場の上昇と下落を経験し、「なぜ思ったような結果にならなかったのか」「このままでよいのか」と考え始めたとき、対面営業を主体とする投信販売会社の本部投信担当者は、どのようなスタンスで顧客と向き合うべきでしょうか。

対面営業の現場では、「インターネット上ではこう言われている」「インデックスで十分ではないのか」といった顧客の声を耳にする機会も増えているはずです。
そうした状況の中で、本部の投信担当部門が果たすべき役割は、単にインデックスファンドを肯定・否定することではありません。
また、現場に“次の商品候補”を提示することだけでもありません。
重要なのは、インデックスファンドを入口として始まった顧客の運用体験を、どのように整理し、次の理解と判断につなげていくかを、金融機関としてどう設計するかという視点です。

本稿では、インデックスファンドからスタートした投資家が投資知識と経験を積み重ね、より納得感のある資産運用へと進んでいく過程を前提に、対面営業を支える本部の投信担当者が、どのような考え方・商品整理・情報提供を行うべきかについて整理します。

「インデックス=中立・安心」ではない

インデックスファンドは「市場全体に分散投資できる」「平均的な運用ができる」と説明されることが多くあります。しかし、指数そのものは中立的な存在とは限りません。
多くの主要指数は時価総額加重平均型であり、時価総額の大きな企業の値動きに強く影響される性質があります。近年の米国株式市場における巨大IT企業への集中は、その典型例です。

全世界株式指数であっても、結果として米国比率が高くなるケースは珍しくありません。
つまり、インデックスファンドは「何も考えずに平均を取る投資」ではなく、「連動対象指数の算出方法が内包する特性を受け入れる投資」であると言えるのです。
この点を十分に理解しないまま保有を続ける顧客は、市場環境が変化した際、「なぜこうなったのか」がわからず、不満や不信を抱きやすくなります。

投信担当者の役割は、「安心だから」という言葉で思考を止めることではなく、取っているリスクにはどのような特性があるのかを言語化して伝えることにあります。

アクティブとインデックスは「優劣」ではない

顧客が経験を積み、「インデックスで本当に十分なのか」「なぜ他のファンドは違う動きをするのか」といった疑問にたどり着いたとします。
この段階で、「アクティブファンドは手数料が高く、長期ではインデックスに勝てない」といった説明だけを繰り返してしまうと、顧客の思考は止まってしまいます。

インデックスとアクティブの違いは、あくまで運用手法(ポートフォリオ構築のプロセス)の違いです。

インデックス:指数の算出ルールに従って、受動的にポートフォリオを構築する。
アクティブ:運用担当者がファンドの投資方針に基づいて、能動的に銘柄や配分を決める。

重要なのは、ポートフォリオ構築のプロセスの違いだけではなく、構築されたポートフォリオの特性の違いにも目を向けることです。
この違いを理解することで初めて、顧客は「自分はどのような役割をファンドに求めているのか」を考えることができるようになります。
投信担当者の役割は、ファンドの優劣を説明することではなく、役割の違いを整理して顧客に示すことにあります。

顧客の理解を深めるのは『検証できる投資体験』

投資における失敗とは、必ずしも資産が減ることではありません。本当に問題なのは、「なぜうまくいかなかったのかを検証できないこと」です。
インデックスファンドを「放っておけばよい」とだけ説明してしまうと、下落局面では「市場全体が悪かったから仕方がない」という思考に陥りやすくなります。そこから学習は生まれにくくなります。
一方で、顧客が自身の保有ファンドの特性を理解していれば、「グロース寄りの特性が金利上昇局面で不利に働いた」「為替変動が円ベースの運用結果に影響した」といった具合に、結果を市場環境との関係で検証できるようになります。

継続フォローとトラックレコードの有効活用

顧客が運用経過を振り返り、検証する機会を提供するのが、継続フォローです。継続フォローは、市場急落時のフォローのような不定期、ピンポイントのフォローではありません。投資環境や運用状況が思わしくない時期だけでなく、定期的に、顧客に運用状況を報告するものです。その際、活用するのがファンドのトラックレコード(運用経過)です。「トラックレコードは将来の成果を保証しない」という言葉は正しいものです。しかし、トラックレコードは、そのファンドの性格を説明するうえで有力な材料の一つです。

上昇局面での動き、下落局面での最大ドローダウン、市場平均との乖離、他指数との相関――これらは、顧客にとって抽象的だったリスク許容度を、具体的な数字と事実に落とし込む材料になります。
トラックレコードを用いた説明は、「どれを買えばよいか」を示すものではなく、「この動きに自分は耐えられるのか」を顧客自身に考えてもらうための重要な手段です。

本部投信担当者の役割は、営業担当者が顧客に継続フォローできる仕組みをつくり、フォローに使用するファンドのトラックレコードを準備することにあります。

長期的に顧客に選ばれる金融機関へ

以上のようなプロセスを経て、顧客自身が選んだファンドが同じインデックスファンドだったとしても、その選択は否定されるものではありません。ここまでのプロセスは、インデックスファンドの保有者にアクティブファンドを販売するためのものではなく、顧客の思考を止めてしまわないためのものです。たとえ説明前後で保有するファンドが変わっていなくても、顧客は「思考する投資家」に一歩前進しているはずです。

インデックス投資から始めた顧客が、自分で考え、検証し、納得して資産運用を続けられるようになる――それを支援できる金融機関こそが、長期的に選ばれ続ける存在となるでしょう。

 

 

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著者情報

中村 裕己
なかむら ひろみ
NTTデータ エービック P&Cオフィス シニアアナリスト
1985年 一吉証券会社(現いちよし証券)入社、金融商品部長等を歴任。投資信託の企画選定、販売プロモーション等の業務に携わる。2008年 コスモ証券(現岩井コスモ証券)。証券会社においては、投資信託の企画・選定、 販売プロモーション企画・立案等の業務に長年携わる。30年以上に及ぶ投信関連業務歴を生かした、顧客目線の投信選定と分析が信条。2018年よりNTTデータ・エービックに参画
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