ファンドモニタリングの目的はファンドの運用力の良し悪しの判断にあらず
ファンドモニタリングの目的はファンドの運用力の良し悪しの判断ではなく、取扱いファンドが想定したファンド特性どおりとの運用内容になっているかを確認することにあります。
ファンドの運用力に変化が生じた場合は、ファンド特性も変化するはずです。従って、ファンド特性のモニタリングを続ければ、運用力が低下したファンドを検出することができます。
ファンドモニタリングに必要な指標(定量データ)は?
ファンドのモニタリングに必要な指標(定量データ)は、一つだけではありません。分析対象となるファンドの特性やファンドのコンセプトによって、分析するデータは異なります。また、複数以上のデータの多角的な分析が必要な場合もあります。
インデックスファンドのモニタリング指標は「トラッキングエラー」
今回は、インデックスファンドのモニタリングに必要な指標とその分析・判断方法について考えてみたいと思います。
インデックスファンドの商品コンセプトは、「対象指数と連動した投資成果を目指す」です。
従ってインデックスファンドのモニタリングは、対象指数の動きとファンドの基準価額の動きにブレ(乖離)がないか?を確認することになります。
ファンドの基準価額の動きと対象指数の動きとのブレ(乖離)を数値化したものが、トラッキングエラーです。
ファンドの収益率と対象指数の収益率の差を2乗した数値の平均値を求め、その数値の平方根によって算出されます。
トラッキングエラーの発生要因
トラッキングエラーの数値は、小さいほど良いとされますが、実際にゼロになることはありません。(もし、ゼロになった場合は、たまたまそうなったということ)
なぜならば、インデックスファンドは、金融商品としての性格上、下記のようなトラッキングエラーが発生する要因を内包しているからです。
コスト要因 指数には費用が掛かりませんが、ファンドの運用には、信託報酬や保有資産の売買コスト、ファンドの監査費用、法定書類作成費用、国外資産の保管費用等のコストが必要です。ファンドが負担する分、指数の成果よりファンドの成果が下回ることになります。
ポートフォリオ要因 指数と同じ銘柄、同じ比率のポートフォリオであれば、原則、指数とファンドの収益率とに乖離は発生しません。しかし、ファンドの運用資産が、指数と同じ構成のポートフォリオを構築するために必要な最低限の資産額の整数倍になるとは限りません。株式配当は、権利落ちの時点で、ファンド資産に計上されますが、実際に株式の買い付け等に使えるのは、配当金の受け取り後になります。運用会社では、様々な運用モデルや指数先物の利用などで、指数の動きとポートフォリオの動きを一致させるよう工夫していますが、確実にゼロにはできません。
設定・解約要因 ファンドは日々の基準価額で設定・解約が可能です。基準価額は、各営業日の引け値ベースで算出されますが、設定や解約に伴う、資産の売買価格には、どうしても差額が生じます。これがトラッキングエラーの要因となります。また、外貨資産に投資するファンドの場合は、基準価額の算出に使っている為替レートと、実際に円から外貨、または外貨から円に転換する為替レートの差分もトラキングエラーの要因となります。
尚、信託財産留保額があるファンドは、各要因のマイナス部分を縮小させる効果が期待されますが、トラッキングエラーが無くなるわけではありません。
トラッキングエラーの水準
メタボリックシンドロームの診断基準、例えば男性ならウエスト85cmといったように、この水準以下なら許容範囲といった数値が、トラッキングエラーにもあるのでしょうか?
残念ながら、明確な水準はありません。その為、同じ指数を連動対象としたファンドとの相対比較が基本となります。また、トラッキングエラーは、ファンドごとに一定ではなく、投資環境の影響も受けるので、定点観測ではなく、時系列で見ていく必要があります。
トラッキングエラーの水準を実際のファンドで確認してみる
日経平均を連動対象とするインデックスファンドで、実際のトラッキングエラーの水準を確認してみましょう。確認したのは、2025年6月末時点で、純資産上位5ファンドです。
2025年6月末現在 単位:%
出所:NTTデータ・エービック Fund Monitor
過去1年のトラッキングエラーの水準は、小さいファンドで0.1%程度、大きいファンドで0.3%程度となっています。
トラッキングエラーが生じる最も大きな要因は、コストであると考えられますが、信託報酬の多寡の順がそのままトラッキングエラーの順番とはなっていません。その他の要因や信託財産留保額なども、少なからず影響しているのです。
上記の表は、2025年6月末時点での定点観測なので、次に約5年遡って2020年1月からの推移を確認しました。上記5ファンドに加えて、日経平均連動型ファンドの平均値とも比較しています。
トラッキングエラー(過去1年)の推移
出所:NTTデータ・エービック Fund Monitor
時系列で見ることでトラッキングエラーは、変動するということが確認できます。信託報酬率は変わっていないと想定すると、その他の要因(ポートフォリオ要因と設定・解約要因)が影響していると思われます。
トラッキングエラーの要因 設定・解約額も併せて確認
日経225ノーロードオープンのトラッキングエラーは、ほとんどの時期で、他の4ファンドよりも大きくなっています。
下のグラフは、2020年1月から2026年6月までの、各月末の純資産総額に対する設定額と解約額の比率の推移です。他の4ファンドは、概ね10%以下であるのに対し、日経225ノーロードオープンは、設定・解約額ともに純資産総額に対する比率が相対的に大きくなっています。このことから、日経225ノーロードオープンのトラッキングエラーは、設定・解約要因が押し上げているものと考えられます。
インデックスファンドのモニタリングにおいては、トラッキングエラーの要因となる設定・解約状況も併せて確認しましょう。
出所:NTTデータ・エービック Fund Monitor
トラッキングエラーは投資環境の影響を受ける
各ファンドと日経平均連動型ファンドの平均値が、ほぼ同じ方向に変動していることから、トラッキングエラーが大きくなる投資環境と逆に小さくなる投資環境があることが分かります。
従って、取扱いファンドのトラッキングエラーが、前回のモニタリングの時点より大きくなっていた場合は、同じ指数を連動対象とするファンドのトラッキングエラーの推移と比較した上で判断することになります。
取扱いファンドのトラッキングエラーのみが大きくなっているようであれば、投信会社に確認の上、改善を要望する等の対応が必要となるでしょう。