証券マンから独立 逆境を越え築いたIFAの志
――IFAとして独立、創業された経緯からお聞かせください。
岩川氏 私はもともと一成証券(現・三菱UFJモルガン・スタンレー証券)の証券マンでした。その後、ソニー生命に転職し、長期的な働き方を考える中で信託報酬ビジネスの存在を知り、強い興味を抱いたことから2002年に独立しました。当初のお客さまは紹介がメインでしたが、開設したホームページからの問い合わせも徐々に増えていきました。創業当時のIFAとしての収益はボランティアに近い状態で、法人保険の販売やファイナンシャルプランナー(FP)としての有料相談が経営を支えていました。当時からライフプランニングベースの中立的な提案にこだわり、無料相談は行わないという方針を貫いています。
地道な貯蓄マインドをお持ちのお客さまを支援することを軸に、お互いの考え方が合致する方を顧客化する方針を徹底しています。
尾口氏 私は学生時代から起業を志しており、新卒で日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に入社する際も将来の独立を見据えて勤務地や雇用形態を選択できるFA職を選びました。転機は2008年のリーマン・ショック。相場の急落によりお客さまに損失を与えてしまう心苦しさを感じていたころ、楽天証券が金融商品仲介ビジネスを開始することを知りました。強く興味を引かれ、FA職の早期退職募集のタイミングを機に独立。楽天証券は当時、首都圏重視の方針だったようですが、何度も地元の富山から足を運び熱意を伝えることで思いが届きました。創業当時はIFA事業と並行して、Web制作事業も行っていました。
商売の厳しさが身に染みる毎日でしたが、この時期に培ったリスティング広告やSEO(検索エンジン最適化)のスキルがオンライン集客など現在の金融マーケティングにも還元されています。
信頼を築くKPI―口座継続率、預り資産が示す真価
――経営哲学や事業内容についてはいかがですか。
岩川氏 弊社の経営哲学は従業員自らが「幸福な人生設計の見本」となること。FPとしてどんな人生を歩みたいかがテーマです。アドバイザー本人がファイナンシャル・ウェルビーイングを実現していなければお客さまに安心や幸福を提供することはできないと考えています。
提供サービスはIFA、FP業務、保険、確定拠出年金(DC)導入コンサルティングや継続投資教育です。お客さまは富裕層というよりも貯蓄マインドを持った方を意識しており、業種や年収では判断しません。年代は50代を中心に10代から80代まで幅広いですね。
尾口氏 弊社は「資産運用をあたりまえに」というビジョンを掲げ、「投資信託相談プラザ」の店舗展開とセミナー開催を通じて金融リテラシーの向上に貢献することを指針としています。
ネット証券全般の口座数は飛躍的に伸びていますが、実際は約40%が未稼働状態とも聞きます。投資の一歩を踏み出せない、あるいは継続できない方々の背中を押すことが弊社の役割。提供サービスはIFAを主軸に保険、住宅ローンの取り次ぎ(銀行代理業)、不動産など多角的に展開しており、 中心顧客は50代、60代の一般層がメインです。
――ビジネスとして目指すKPI(重要業績評価指標)は?
岩川氏 金融庁が掲げる投資信託の共通KPIを意識しており、顧客資産の運用成果のほか、口座継続率を重視しています。口座継続率は20年以上にわたり90%近くを維持しており、結果的に信託報酬のみで会社の固定費を100%賄えるコストカバー率を達成しています。
尾口氏 弊社は預り資産額を重視しており、100億円を達成するのに8年かかりましたが、現在では5000億円を超える規模にまで成長し、一つの節目となりました(2026年3月時点)。地元の地銀にも匹敵する規模となり、社会的責任の重さを日々、痛感しています。
――組織体制や人材採用について、現状分析や課題をお聞かせください。
岩川氏 お客さまとともに喜び合える関係を実現できているのは、長期的な視点を持ち、数々のチャンスがあっても慎重に見極めて、あえてやらないという選択を貫き、フィービジネスに徹し続けてきたからだと考えています。「お客さまと100年以上、お付き合いを続けられるか」を基準に据えれば、採用すべき人材もやるべき仕事も自ずと見えてきます。目の前のお客さまに真摯に向き合う「現場の職人」であり続けることが、変わらない使命です。
採用は「一緒に働きたい」と思える人とじっくり距離を縮め、価値観を共有した上で迎え入れる形を続けています。結果、お客さまにとって正しい行動を取ることが当たり前の環境が醸成されており、売上目標も設けていません。
尾口氏 現在全国17店舗まで拡大していますが、出店はレンタルオフィスからのスモールスタートを基本に、軌道に乗ってから店舗を構える戦略をとっています。一方で出店ペースに採用が追い付いていない面は課題です。とはいえ、やみくもに広げるつもりはなく、無理せず拡大していく方針です。
新卒採用では証券会社や銀行と競合する場面があり、自社ブランドの確立が急務だと感じています。採用市場のインフレ化やテレワークの普及など環境の変化を踏まえながら採用戦略をアップデートしていく必要があると認識しています。店舗展開と人材育成のバランスを取りながら、預り資産という信頼の証を地道に積み上げていきたいですね。
IFAの将来像は欧米型モデルへ進化 確定拠出年金(DC)支援が発展の鍵に
――今後のIFAのあるべき姿、業界発展に向けてどのような取り組みが必要でしょうか。
岩川氏 資産運用のアドバイスは、医療と同じく本来は誰に相談しても同じ答えが導き出されることが大切だと考えています。医師が一定の経験を積んでからメスを握るように、金融アドバイザーにも資格取得だけでなく、実務に基づいた均質な教育が必要ではないでしょうか。誠実であることは大前提であり、その上で高度な専門性と人間味あるコーチングを両立させることがこれからのアドバイザーの姿だと思っています。
今後の焦点は、企業型確定拠出年金(DC)の普及だと考えています。DCは国民が平等に享受すべき優れた制度ですが、まだ多くの経営者がその真価をご存じないのではないでしょうか。DCを通じて企業の従業員の皆さまの資産形成を支援し、継続的な投資教育を実践することはIFAにとって最大の社会貢献の一つです。一人ひとりのIFAがお客さまの人生における極めて重要な資産を預かっているという強い自覚を持ち続けることが最も大切だと考えます。
尾口氏 IFAの登録外務員数は現在約1万人ですが、保険業界からの参入が増えており、中でも大手保険代理店による大手ネット証券との提携の動きが進んでいます。数年以内に登録者数が1万5,000人規模へ拡大し、いずれは保険出身のアドバイザーがIFA業界の大半を占めるようになる可能性もあるでしょう。
先行する欧米のRIA(独立系投資顧問)の多くは相場予測などではなく、ラップ口座などを活用した中長期の分散投資を基本としており、バックボーンは保険出身者が多いと聞きます。日本のIFAもこのような欧米型へと近づいてきており、DCにも同様の流れがあります。欧米では現役世代の運用はロボアドやDCに任せ、出口段階からRIAが税務相談やポートフォリオの組み直しに関わるのが一般的です。日本でもDCの制度開始から25年が経ち、満期を迎える方が増えてくる今後はDCの出口支援がIFAの重要な業務になっていくでしょう。だからこそ欧米の最新動向をしっかりと把握しながら業界全体で進む道を探していくことが重要だと考えています。
顧客に伴走し感謝される喜び、社会貢献を担う責任にやりがい
――業界を取り巻く環境が変化していく中、IFAとしての社会的意義ややりがい、次世代へ贈るメッセージをお聞かせください。
岩川氏 IFAの存在意義は徹底した中立性にあります。弊社ではあらゆる手数料を開示し、お客さまにとって最善の選択肢を提示し続けることで完全中立な立場を貫いています。今後はAIなどの技術革新により、付加価値のないアドバイスは淘汰されると考えております。真に顧客の感情に寄り添うコーチングや世代を超えたウェルビーイングの提供は人間にしかできません。例えば弊社では、お客さまが経営するレストランを会場にほかのお客さまやそのご家族を交えて交流いただく会合を開催し、お金の使い方までを含めた豊かな人生を提案しています。
IFAを目指す次世代の皆さまには、まずご自身のライフプランを見つめ直すことからスタートしてほしい。近年は、20年以上の実務経験で得た知見をもとに保険代理店向けにIFA育成にも力を入れておりますが、お客さまと長期的に歩み、深く感謝されるこの仕事がIFA自身の人生をいかに豊かで意義深いものにしてくれるか、ぜひ実感してほしいと思っています。
尾口氏 既存の金融機関が店舗を削減し富裕層へ特化する中で、一般のお客さまが気軽に資産運用の相談をできる窓口としてIFAの役割は年々大きくなっています。ネット証券の普及に伴い、トラブル時のサポートやリテラシー向上のための啓蒙活動は社会的なインフラとしての側面も持ち始めており、IFAが伴走してサポートする需要はますます高まっていくでしょう。
IFAの醍醐味は証券、保険、DCなど幅広い選択肢からフラットに提案ができることにあります。近年のインフレ環境下では、資産を守り、育てるアドバイスが巡り巡って企業の賃上げや個人の生活の安定に寄与します。日本の資産所得倍増プランを支える一翼を担っているという自負を持ち、この仕事に挑戦していただけたらうれしいですね。
