販売会社の投信担当者が選ぶ優れた運用会社(ブランドインテグレーション調査)販売会社一般(地銀、第二地銀、証券会社が対象)で2024年に総合的に最も高い評価を得たのは日興アセットマネジメントだった。第2位はフィデリティ投信だったが、評価の6つの軸では3項目でトップに評価され、2項目がトップだった日興アセットマネジメントを上回っていた。総合評価については「サポート力」の評価が高い日興アセットマネジメントが一歩上回り、「運用力」で評価されるフィデリティ投信を抑えたということになる。評価対象になった運用会社数は49社。
販売会社が運用会社を評価する6つの軸(「運用力」「商品開発力・企画力」「営業担当者・研修担当者の質」「サポート力」「識別力」「ガバナンス」)の中で、過去4回の調査で一貫して最も重視されているのは「運用力」だ。それに次ぐのが「サポート力」で、第3に重視されるのが「営業担当者・研修担当者の質」と「商品開発力・企画力」になっている。
「運用力」で高い評価を得ているのは?
「運用力」について高い評価をえているのはフィデリティ投信だ。「フィデリティ・世界割安成長株投信Bコース(為替ヘッジなし)(愛称:テンバガーハンター)」、「フィデリティ・グロース・オポチュニティ・ファンドDコース(毎月決算・予想分配金提示型・為替ヘッジなし)」など中長期で市場平均を上回る成果を出していることなどが評価されていると考えられる。第2位はゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントで「netWIN GSテクノロジー株式ファンドBコース(為替ヘッジなし)」は長期にわたり高いリターンを出していることなどが改めて評価されることになったのだろう。第3位はアセットマネジメントOneだった。
売れ筋のアクティブファンドを提供している運用会社では「アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信」のアライアンス・バーンスタインも第4位に評価されている。ただ、「野村世界業種別投資シリーズ(世界半導体株投資)」や「野村インド株投資」などの売れ筋がある野村アセットマネジメントは第8位という順位だ。「米国株式」や「全世界株式」などメインのカテゴリーで目立って活躍するファンドがなかったことが原因だろうか。また、半導体やインド株に続く残高上位ファンドが「のむラップF」や「野村PIMCO・世界インカム戦略F」などバランス型や債券型のファンドになっているのも現在の市場環境では評価されにくかったといえる。また、インデックスファンドで市場を席捲している三菱UFJアセットマネジメントは「運用力」の評価ではトップ10に入らなかった。
「サポート力」と「人材」で国内大手が抜きん出る
「サポート力」で高く評価されているのが日興アセットマネジメントだ。また、「サポート力」の項目で最も重視されているのは「研修・セミナー(対面・オンライン)の質が高い」という項目で、もう一つの評価軸である「営業担当者・研修担当者の質」でも日興アセットマネジメントはトップに評価されている。日興アセットマネジメントが販売会社からの評価で総合1位になり得るのは、この「サポート力」に優れ、それを支える人材にも力をいれて組織しているところだろう。
「サポート力」の第2位は野村アセットマネジメント、第3位に大和アセットマネジメント、第4位にアセットマネジメントOneが入り、国内の大手運用会社が上位に並ぶ。同様に「営業担当者・研修担当者の質」では野村アセットマネジメントが第2位、第3位にゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントをはさんで、第4位にアセットマネジメントOne、第5位に大和アセットマネジメントが続く。国内大手は陣容の面でも歴史の面でも販売会社との関係構築に注力してきた。外資系の運用会社がなかなか割り込めないだけの強い結びつきを勝ち得ていることがうかがえる。
しかし、「サポート力」の第4位に同率でゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント、第6位にフィデリティ投信が食い込んできている。「運用力」だけでなく「サポート力」についても国内大手と伍して競合できる体制を作っているところに、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントとフィデリティの底力がみえる。また、この「サポート力」の強さがあってこそ、「運用力」の高い評価にもつながっていると考えられる。
「商品力」でトップに変化
「商品開発力・企画力」ではフィデリティ投信がトップだった。日興アセットマネジメントは第2位、アセットマネジメントOneが第3位になった。フィデリティ投信は、米国で50年を超える歴史のある「フィデリティ・コントラ・ファンド」(国内では「フィデリティ・米国株式ファンド」)について「資産成長型」「分配重視型」「毎月決算・予想分配金提示型」を追加するなどきめ細かなコースの設定を行うなど、長期運用の王道といえるファンドについて市場のニーズに応える調整をコツコツと続けている。一方で、長年の運用実績がある「フィデリティ・ブルーチップ・グロース・ファンド」に投資する「One/フィデリティ・ブルーチップ・グロース株式ファンド」(委託会社:アセットマネジメントOne/運用:フィデリティ投信)を2023年12月に設定し、2024年9月にはフィデリティの代名詞ともいえる「フィデリティ・マゼラン・ファンド」と同じ運用方針の「フィデリティ・マゼラン・米国成長株ファンド」を新規設定するなど伝統のある好成績ファンドも積極的に国内市場に投入している。
日興アセットマネジメントは、「Tracers S&P500ゴールドプラス」や「Tracers S&P500トップ10インデックス(米国株式)」など特徴のあるファンドを市場に出してきている。ただ「Tracers」シリーズがネット販売の低コストファンドシリーズということもあって、かつての「グローバル3倍3分法ファンド」や米ARK社の運用力を生かしたハイテク株ファンドのような爆発的な人気を勝ち得るまでにはいたっていない。ここ数年は、米国株式市場が世界全体の市場をリードする展開が強まっており、フィデリティやゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントという米国市場に強い運用会社と比較すると、国内の運用会社には商品開発の面でやや不利な状況になっているようだ。今後、債券投資への魅力が回復するような環境を迎えているだけに、資産の組み合わせの妙を生かした商品開発などが期待されるところだ。
残る2つの評価軸である「ガバナンス」では野村アセットマネジメントがトップに評価され、「識別力」ではフィデリティ投信がトップになっている。
新NISAで変わる勢力図
販売会社に聞いた運用会社の評価は、「運用力」のみならず「サポート力」を含めた総合的な評価で順位が決まる。参考までに、ゆうちょ銀行・郵便局やIFAも含めた全体的な調査結果では2021年以来、日興アセットマネジメント、野村アセットマネジメント、アセットマネジメンットOneの3社がトップ3を占めてきた。それが2024年の調査では販社一般と対象が狭いとはいえ、第2位にフィデリティ投信が食い込んできた。新NISAがスタートし、国民的に資産運用に関する関心が高まり、従来に増して「長期投資」が意識されるようになった。市場のニーズに合わせて柔軟な商品開発で投資家の好みを実現することにたけている国内系よりも、欧米で実績を重ねた外資系運用会社への期待が高まってきたのかもしれない。
一方、トップの日興アセットマネジメントは2025年9月に「アモーヴァ・アセットマネジメント」に社名変更を予定している。株主や経営体制に変更はないものの、1959年12月の設立から長年にわたって親しまれてきた「日興」との決別は、大きな変化になる可能性がある。高く評価されている「サポート力」等には変化はなく、引き続き販売会社向けに手厚いサービスを提供する考えだろうが、販売会社の方で、この変化をどのように受け止めるのだろうか。2025年の調査には変化が表れそうだ。