国内投資目標を策定へ
石破茂首相は1月24日に衆参両院で施政方針演説に臨みました。元経済企画庁長官で作家の故・堺屋太一氏の著書を引用した「楽しい日本」というキャッチフレーズに注目が集まった一方、首相が掲げてきた「投資立国」の具体論にこれまでより一歩踏み込んだ発言もありました。
首相は「賃上げと投資が牽引する成長型経済」を実現すると説明。持続的な成長を目指すため、コストカット型経済から高付加価値創出型経済への移行が重要との認識を示しました。その具体策として「官民投資フォーラムを開催し、国内投資目標を示し、規制改革の検討を深め、大胆な国内投資促進策を具体化する」と述べました。
また、AI、量子、バイオ、宇宙、フュージョン(核融合)を戦略分野と位置付け、科学技術・イノベーション基本計画の改定を進めて投資を促す考えを提示。「長期の企業価値向上に向けた投資家との対話などを通じて、人や技術への投資を進める環境を整える」としました。
岸田前政権から引き継ぐ「資産運用立国」の取り組みについても言及し、「現在や将来の賃金の増加等をいかした資産形成の後押しも重要」と指摘。「NISAやiDeCoの充実など資産運用立国の取組を強化する」と述べました。賃上げと資産形成支援は前政権でもそれぞれ重要な政策課題として位置づけられていましたが、今回の演説では両者を一体的な文脈の中で推進するニュアンスを打ち出した格好です。
ひねり出した独自色
岸田前政権の「資産運用立国実現プラン」の下では、個人投資家、機関投資家、製販両サイドやシステムベンダーに至るまで、インベストメントチェーンを構成する幅広い各プレイヤーに関して、「成長と分配の好循環」の実現を目指すさまざまな環境整備が進められてきました。石破政権が「投資立国」(政権発足当初は「投資大国」)をスローガンとして打ち出して以来、金融業界内では、インベストメントチェーン全体をカバーする網羅性を強調してきた旧プランに、現政権が独自色を付け加える余地があるのかを冷ややかにみる向きもありました。
今回の施政方針演説は、全体的に具体論の乏しさが批判を浴びることになったものの、経済政策に関しては、投資マネーの供給サイドではなくその受け手側に注目した環境整備に注力することで、旧プランとの差別化を図る姿勢を打ち出した形です。
首相は投資立国や資産運用立国の政策と別に、「楽しい日本」を目指す「令和の日本列島改造」と銘打って5本柱(「若者や女性にも選ばれる地方」、「産官学の地方移転と創生」、「地方イノベーション創生構想」、「新時代のインフラ整備」、「広域リージョン連携」)を提示。このうち「新時代のインフラ整備」の項目で、投資マネーの振り向け先として重視する分野に言及。「脱炭素電源の整備と新たな産業用地や関連インフラの整備を共に促す施策を具体化する」と説明した他、150兆円超のGX投資を呼び込むための成長志向型カーボンプライシングの制度化と、循環経済への移行に向けた法案を提出するとしました。
また、AI、データセンターなどをつなぐ情報通信ネットワークを整備するとした上で、「AI・半導体分野に50兆円を超える投資を引き出す環境整備のための法案を提出する」とも話しました。