今回は、近時、様々な注目を集める“四国の玄関口”の香川県に着目し、金融を含む地域事情をごく簡単に解説させていただきます。
正直に言えば、隣の愛媛県への訪問回数の方が多いのですが、筆者もサラリーマン時代からの30年強にわたって香川県を相当数訪ね、その移ろいを見てきました。今回の記述あたっても、現地を訪問し取材も行った次第です。
最狭の都道府県
今回の取材時にも、相当数の面談者から『ご存じのとおり最小の都道府県ですから』という発言がみられました。よって多くの県民に、「香川県が全国で一番狭いという事実が全国に浸透している(であろう)と」認識されているようです。しかしながら、世間は地図マニアや不動産事業者ばかりでもなく、「そう言えばそんなことを習ったような…」という程度の人も多いと思います。そのギャップは、それなりにあるように感じました。
実際の面積は約1,876㎢で、正方形に均すと縦43.3km×横が43.3キロkmになります。原付バイクを時速30kmで運転しても、1時間半かからずに東西南北を移動できてしまう距離のため、そう言われれば確かに狭い印象を受けます。
国別面積順位で170位の、アフリカ大陸-マダガスカル島間に位置するコモロ連合(コモロ)の1,862㎢と同じくらいの面積の模様です。1986年には、コモロ政府の協力の下、日本の調査隊がシーラカンスの水中撮影に成功しています。
県内では、そんな狭い面積の中に川自体が少なく、その少ない川のどれもが短い模様です。このため、弘法大師空海が再築した満濃池を始めとする渇水対策のための溜池が14,000か所以上あるものの、取水が制限されることが少なくありません。1994年の渇水時の水不足時には連日窮状が大きく報じられ、全国から飲料水などが香川県に輸送されました。この際には約1,100か所の農業用井戸が新設された模様です。
高松市への一極集中
今年1月1日現在の香川県の人口は91万5250人で、今年1月の東京都世田谷区の人口92万3210人を8,000人弱下回ります。5年毎に実施される国勢調査ゆえ、直近の実施時点が2020年になるのですが、その際の都道府県別の人口密度では、東京・大阪・神奈川・埼玉・愛知・千葉・福岡・兵庫・沖縄・京都に次ぐ11位となっています。
県内の市町村別人口では、昨年4月時点の調査で、高松市が全体の44%を占めています。第2位の丸亀市が12%なので、約3.8倍という突出した実情です。首都への人口集中割合が東京やロンドン以上に高いことがよく指摘されるソウル(特別市)の韓国全体に占める人口の割合が2023年時点で18.20%であるため、その倍以上の数値です。
高松市の面積は232.8㎢で、県全体の12%に過ぎません。およそ8分の1の面積に半分弱の人が集まっているわけですから、密集度は当然に高まります。後述する預貯金取扱金融機関の偏在ぶりも、こうした実情が背景にあることが想像に難くありません。

中心部に位置する8つの商店街で構成され、その総称として著名な高松中央商店街は、アーケードの長さだけで約2.7kmあり、大阪の天神橋筋商店街の約2.6kmを上回る日本一の長さを誇っています。かつての賑わいは、相当なものだったことが想像に難くありません。その一方で、現在では閉店したままとなった店舗跡地も多く、人口減少・後継者不在・中心市街地空洞化など地方部で特に顕著な課題をとても明確に突き付けているように感じます。
本格的なドームを持つ日本初の商店街を謳った高松丸亀町商店街のドーム下広場では、取材時に非営利団体が寄附金を募っていました。そのすぐそばには百十四銀行の創業地の碑が設置された店舗があり、その周辺が古くからの経済活動の中心であったことが窺えました。
東京からのアクセス
東京から県内中心部の高松市への主たる訪問ルートは、①東京駅から岡山駅まで新幹線+在来線で瀬戸大橋を横断し高松駅、②羽田空港から高松空港まで飛行機+市内までリムジンバス、の2種が中心となります。
「岡山-高松」間は快速マリンライナーが1時間に2本程度運行しており、乗車時間は55分くらいです。「東京-岡山」間の乗車時間が3時間15分くらいなので、乗換えに要する時間を含めても、4時間半くらいで着きます。そうした所要時間以上に、乗換負担が、四国までの「遠い」イメージをもたらしているように思います。

心理的な負担以上に大きいのは、何と言っても交通費ではないでしょうか。直通の新幹線が走行していないため、価格競合がもたらされず、旅客機の料金が相対的に高く設定されていることが大きいと思います。実際に、神戸・岡山・広島など本州側への航路に比べ割高な印象が拭えません。このため現在は、「成田空港‐高松空港」間でLCCのジェットスターが1日2便就航している模様です。
他の移動手段では、八王子・新宿などと高松を結ぶ高速バスや、国内で僅かに残った寝台特急のサンライズ瀬戸があります。
注目を集める県内出身者政治動向
2月20日に開かれた香川県議会で、池田豊人知事は、大学進学時の若年層の流出防止のため、県内唯一の公立大学である県立保険医療大学の拡充や、新たな県立大学の設置などを選択肢として挙げました。既に人口減少局面に入って久しく、私立大学の半数超が定員割れしている状況が認められる中ゆえに、新設公立大学を認可させることは難しいように思う一方、旧建設省出身らしい発想とも感じました。
県内出身者では、いわゆる103万円の壁を巡る対応の渦中に居る玉木雄一郎・国民民主党代表を始め、政治面で話題の人物が多い印象を受けます。
分野 |
県内出身者・事業者[敬称略] |
政治 |
玉木雄一郎(国民民主党代表)、小川淳也(立憲民主党幹事長、映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」)、平井卓也(初代デジタル相)、磯崎仁彦(元内閣官房副長官) |
経済 |
タダノ(建設用クレーン国内最大手)、穴吹興産(不動産大手)、マルナカ(県内で広域展開するスーパーマーケット)、大倉工業(合成樹脂フィルム大手)、合田工務店(県内ゼネコン最大手)、こだわり麺や(丸亀発祥のうどんチェーンで海外にも進出) |
芸能 など |
南原清隆、松本明子、中田ボタン(中田カウス・ボタン)、高畑淳子、要潤、水野美紀 |
県民性
ネット上では「要領が良く抜け目がないため小賢しい」などの書込みが散見されるようですが、これまで相当数の出身者や在住者に直接接し、また転勤者等の意見を聴いた中でそうした声はありませんでした。総体では「日照時間が長く温暖な気候を背景に大らか」という意見が支配的な模様です。
今回取材した金融実務者の中には、貯蓄率の高さをもって堅実な県民性を訴えられた方もいらっしゃいました。このため、関連する数値で検証してみました。
直近の調査は2019年の模様ですが、世帯単位の「貯蓄残高÷年間収入」で算出される貯蓄年収比では、香川県が全国3位となるようです。上位と下位各々5都道府県を抽出してみましたが、上下に相応の差が認められるため、上位に位置する香川県民には、貯蓄を好んで実践する意向が認められる可能性があると考えます。

香川県内の金融機関
県内には、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行、三菱UFJ信託銀行、三井住友信託銀行、みずほ信託銀行(高松営業部)の大手メガバンクグループほか、阿波銀行・伊予銀行・四国銀行など四国4県の他の地方銀行が多数出店しており、これらの店舗が軒を連ねる高松市の中心部は、さながら“金融銀座”です。
これらに向き合う県内金融機関は、高松信用金庫が1981年に坂出市に本店を置いていた坂出信用金庫と、2004年には丸亀市に本店を置いていたさぬき信用金庫と合併し、観音寺信用金庫との県内2信用金庫体制となっています。
また、2000年に全県単一農協を目指した香川県農業協同組合は、当初合併に同意しなかった高松市農業協同組合と2003年に合併し、2013年には最後まで合併を拒んでいた香川豊南農業協同組合と合併し、全国では3番目の全県単一農協となっています。
さらに、5つの無尽会社が合併して誕生した香川無尽、1951年の相互銀行法施行後に香川相互銀行と改称した後、1989年に普通銀行に転換した香川銀行も、2010年に徳島市に本店を置く徳島大正銀行と共に金融持ち株会社のトモニホールディングスを設立してその傘下に入る形となっています。
信用組合では、かねてより、1954年から香川県全域を地区としていた香川県信用組合が県内唯一の信用組合として組合員等からのニーズに応えていた模様です。結果として、現在ではこれら6先まで再編が進んでいます。
県内に本店を構える預貯金取扱金融機関[順不同]
業態 |
本店 |
金融機関名 |
銀行 |
高松市 |
百十四 |
同上 |
香川 |
|
信用金庫 |
同上 |
高松 |
観音寺市 |
観音寺 |
|
信用組合 |
高松市 |
香川県 |
農業協同組合 |
同上 |
香川県 |
先にも触れたとおり、これら6先のうち高松市以外に本店を置いているのは観音寺信用金庫だけという極端な偏在がみられます。それゆえに、居住あるいは事業展開地域によって、利用できる金融サービスが十分でない可能性などが疑われます。
県内で最もシェアが高いのは百十四銀行であり、1878年に第百十四国立銀行として設立されました。宮城県の七十七銀行、長野県の八十二銀行などと並び、“ナンバーバンク”として残る数少ない銀行であり、3年後の2028年には創立150周年となる見込みです。1966年の現本店の新築移転時には西日本で一番高いビルで、最近では、香川県庁などと組み合わせた、モダニズム建築の見学ツアーで訪れる来訪者もいるとのことです。

同行では、早期の段階から県外に活路を求めて進出した広域地方銀行のはしりであり、現在の店舗網は11都府県にまたがっています。有人店舗の強みを活かして預り資産提案などを含む“総合コンサルティンググループ”を目指すと標榜されています。
先に挙げたとおり貯蓄性向が高い県民性ゆえ、その裏返しとして消費性資金のニーズは弱くなります。それゆえに、富裕層などに代表される相談・資産運用ニーズに応えていくことに活路を見出そうとしているのかも知れません。よって、証券会社などを含む他業態との競争も、今後ますます激化していく可能性もあるでしょう。
投資を考えられる際には
昨年11月29日に、総務省から財政健全化比率が公表されています。都道府県別の負担が重い順で、香川県は、①実質公債費比率が29位の10.2%、②将来負担比率が23位の165.1%となっています。
区分としては、いずれも中位に位置づけられます。大まかに言えば、前者①が「地方公共団体(本体)+公立病院や下水道などの公営企業+地方開発事業団(組合)」の地方債など借入金の返済額(公債費)を地方公共団体の財政規模で割った数値、後者②が①に地方公社や第三セクターを加えた返済元本を地方公共団体の財政規模で割った数値になります。香川県は、①よりも②の順位が若くなるため、借入元本の負担が相対的に大きいわけです。
これらに向き合うには、県の経済活性化が不可欠です。瀬戸内海で淡路島に次ぐ2番目に大きな小豆島は香川県に属し、醤油とオリーブの一大産地となっています。特に後者は日本を代表する地域として著名で、香川県産を主原料としたオリーブ葉の粉末を添加した餌を一定期間与えて養殖している“オリーブハマチ”もブランド化しています。今回の出張時には、高松市内の中心部の飲食店で「オリーブハマチ」と書かれた幟(のぼり)も多数見掛けたため、消費者にも相応に浸透し、経済活性化に寄与している様子が窺えました。