finasee Pro(フィナシープロ)
新規登録
ログイン
新着 人気 特集・連載 リテール&ウェルス 有価証券運用 金融機関経営 ビジネス動画 サーベイレポート
金融専門の公認会計士が示す 攻めの金融商品会計のアイデア

仕組み商品「ルックスルー」の実務

岡本 修
岡本 修
新宿経済研究所 代表社員社長 公認会計士
2024.09.24
会員限定
仕組み商品「ルックスルー」の実務

デリバティブ内包型の金融商品

先月の記事「なぜいま『仕組みローン』なのか」では、とある金融専門紙に掲載された、信金業界で仕組み貸出が増加しているという話題を切り口に、信金や地銀などの地域金融機関にとって仕組債ではなく仕組み「ローン」に取り組む会計上のメリット、というテーマを取り上げてみた。

繰り返しになるが、「信金の証券会社向けの貸付金」のすべてが仕組みローン、という話ではないし、逆に、仕組みローンはすべてが「信金の証券会社向け貸付金」、というわけではない。本稿では繰り返さないが、SPC向けの貸付金などを巡る論点については、信金特有の論点もある(図表1)ため、これについて気になるという方は、前稿を是非とも再度、ご参照いただきたい。

図表1 仕組みローンの一般的な特徴(再掲)

(出所)著者作成

仕組み商品、会計とバーゼル規制の取扱いの違いとは?

さて、本稿で取り上げておきたいのは、仕組み商品に投資する場合の、銀行自己資本比率規制(いわゆるバーゼル規制)上の取扱いだ。

前稿で述べたとおり、金融商品会計上、仕組み商品であっても組込デリバティブのリスクが元本に及ばないなどの要件を満たせば、基本的に「一体処理」、すなわち「デリバティブの存在を会計上無視する」という処理が認められる。

しかし、バーゼル規制ではそういうわけにはいかない。そもそもバーゼル規制では、自己資本の額をリスク・アセットの総額で割って「自己資本比率」を計算したうえで、その自己資本比率を一定水準以上に維持することが義務付けられているからだ(その最低水準は銀行の規模、国際統一基準行かどうか、あるいは内部格付手法を採用しているかどうか、などにより、かなり細かな違いがあるが、本稿では省略する)。

この規制の趣旨は、銀行が経営危機に陥らないよう、リスクに見合った十分な水準の自己資本を維持することを要求するものだと考えられるが(著者私見)、こうした観点からは、バーゼル規制の趣旨に従い、その商品の特性に応じ、信用リスク・アセットについても適切に計算する必要があるはずだ。

いわゆるルックスルーをするのか、しないのか

では、これについてどう考えれば良いか。

実は、バーゼル銀行監督委員会(BCBS)や金融庁が公表している「告示」などを読んでも、仕組み商品のリスク・アセットをどう計算すればいいかについて、明文の規定は設けられていない。

このため、金融機関によっては、仕組み商品の発行体が証券会社である場合には20%のリスク・ウェイト(※バーゼルⅡの場合)を適用し、信託の場合は金融機関に準じて20%(または無格付法人に準じて100%)のリスク・ウェイトを、発行体がSPCなど無格付の法人である場合には「無格付のコーポレート」として100%のリスク・ウェイトを適用する、といった実務も一部では見られるようだ(図表2)。

図表2 一部金融機関における仕組み商品のリスク・ウェイトの判定例

(出所)著者作成

ただ、結論からいえば、このような考え方は、ケースによっては適切ではない。仕組み商品に存在する特有のリスクを適切に評価していないこともあるからだ。やはり著者自身は、ケースによっては仕組み商品を経済的に分解し、それぞれのリスクに応じてリスク・アセットを計算しなければならないと考える(一般にこれを「ルックスルー」と呼ぶ)。

ルックスルーが必要ないケース

図表1や図表2に示した「代表的スキーム」でもわかるとおり、仕組み商品には大きく①証券会社等に対する与信となる場合と、②信託勘定やSPCなどの「箱」に対する与信となる場合の、大きく2つのパターンがある。このうち①の「証券会社等が直接、その仕組み商品を発行している」というケース、たとえば前稿にて取り上げた「証券会社向けの仕組み貸出」などでは、一定の例外を除き、その証券会社等に対する与信とみなせる。この場合、リスク・ウェイトは、基本的にはその証券会社等に対して適用されるもの(バーゼルⅡ規制下では多くの場合20%、バーゼルⅢ最終化以降はその証券会社等の外部格付等により決定されるリスク・ウェイト)を適用して差し支えないはずだ。

ただし、話が細かくなって恐縮だが、証券会社等に対する与信であっても、いわゆる「ダブル・クレジット」、つまりその証券会社等がクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)のプロテクションの売りポジションを組み込んだ仕組み商品を発行しているケースでは、単純にその証券会社等に対する与信とみなすのは不適切かもしれない。その証券会社等に対するリスクだけでなく、CDSの参照組織のリスクも負っていることになるためだが、これについては別途、金融商品の仕組みの概要を知る必要もあるため、機会があれば別稿にて説明したいと思う。

ルックスルーが必要なケースと具体的な適用

一方、②のパターン、つまり信託やSPCなどの「箱」に対する貸付などのスキームは、多くの場合、単純にその信託やSPCに対する与信とみなすことは不適切である。一般に、信託やSPCはそれ自体が事業を営んでいる主体ではなく、債務償還能力もその信託やSPCが保有している財産の範囲に限られてしまうからだ。このため、単純に「信託は金融機関だから20%」、「SPCは無格付法人だから100%」、などとリスク・ウェイトを判定してしまうべきではないのである。

では、信託・SPC向けのローンなどのリスク・ウェイトは、どのように測定すべきか。

これらのスキームは多くの場合、投資家が払い込んだ資金で何らかの担保債(※円建て商品なら、多くの場合は日本国債)を購入し、これとは別に、SPCないし信託が金融商品取引業者等(その仕組み商品を販売する証券会社等)との間でデリバティブ契約を締結する、というものである(図表3)。

図表3 SPCや信託を使った仕組み商品の例

(出所)著者作成

したがって、信託・SPC向けのローンに関しては、スキームに組み込まれている担保債やデリバティブ取引を、あたかも投資家が直接、保有しているのと同じようなリスク・ウェイトの判定を行うべきであろう。

その際、とりわけ留意すべき金融商品の典型例が、デリバティブ取引であろう。

仕組み商品に組み込まれているデリバティブとしては、次のようなものがあり得る(図表4)。

図表4 デリバティブの種類に応じたリスク・アセットの考え方の例

(出所)著者作成

このあたりは、金融商品会計上「一体処理」が認められる仕組み商品であっても、バーゼル規制上はデリバティブのリスクを別途計算しなければならないのが厄介なところといえるかもしれない。

ただし、組込デリバティブの信用リスク・アセットの計算については、ほかにもいくつか論点があるため、これについては先ほど述べた「ダブル・クレジットの場合」とあわせて、機会があれば近いうちに別稿で説明することにしたい。

 

デリバティブ内包型の金融商品

先月の記事「なぜいま『仕組みローン』なのか」では、とある金融専門紙に掲載された、信金業界で仕組み貸出が増加しているという話題を切り口に、信金や地銀などの地域金融機関にとって仕組債ではなく仕組み「ローン」に取り組む会計上のメリット、というテーマを取り上げてみた。

続きを読むには…
この記事は会員限定です
会員登録がお済みの方ログイン
ご登録いただくと、オリジナルコンテンツを無料でご覧いただけます。
投資信託販売会社様(無料)はこちら
上記以外の企業様(有料)はこちら
※会員登録は、金融業界(銀行、証券、信金、IFA法人、保険代理店)にお勤めの方を対象にしております。
法人会員とは別に、個人で登録する読者モニター会員を募集しています。 読者モニター会員の登録はこちら
※投資信託の販売に携わる会社にお勤めの方に限定しております。
モニター会員は、投資信託の販売に携わる企業にお勤めで、以下にご協力いただける方を対象としております。
・モニター向けアンケートへの回答
・運用会社ブランドインテグレーション評価調査の回答
・その他各種アンケートへの回答協力
1

関連キーワード

  • #会計・税制
前の記事
なぜいま「仕組みローン」なのか
2024.08.26
次の記事
クレジット・リンク商品の金融商品会計の考え方
2024.10.22

この連載の記事一覧

金融専門の公認会計士が示す 攻めの金融商品会計のアイデア

未履行のコミットメントに適用するリスク・ウェイトは何%?

2025.05.20

バーゼルⅢ最終化で振り返る「規制強化」の歴史

2025.04.21

組合で保有する非上場株式の時価評価容認へ

2025.03.25

リース会計がもたらす金融機能の低下リスク

2025.02.20

リースのオンバランス化とリスク・アセットへの影響を探る

2025.01.22

銀行自己資本比率規制におけるデリバティブの扱いをまとめてみる

2024.12.23

クレジット・リンク商品のリスク・ウェイトとは?

2024.11.20

クレジット・リンク商品の金融商品会計の考え方

2024.10.22

仕組み商品「ルックスルー」の実務

2024.09.24

なぜいま「仕組みローン」なのか

2024.08.26

おすすめの記事

三井住友銀行の売れ筋に見える変化、トランプ関税による世界株安でも安定的な動きを続けた人気ファンドとは?

finasee Pro 編集部

未履行のコミットメントに適用するリスク・ウェイトは何%?

岡本 修

三菱UFJ銀行の売れ筋で「日経225」と「S&P500」を再評価、「S&P500」をパフォーマンスで圧倒した人気ファンドとは?

finasee Pro 編集部

「外国株式型」の純資産が3カ月連続で減少して資金流入にも陰り、パフォーマンスでは「ゴールド」(為替ヘッジあり)が好調=25年4月投信概況

finasee Pro 編集部

【みさき透】視界不良の「プラチナNISA」、意外に響くネットの評判 

みさき透

著者情報

岡本 修
おかもと おさむ
新宿経済研究所 代表社員社長 公認会計士
1998年 慶応義塾大学商学部卒業後、国家公務員採用一種試験(経済職)合格。中央青山監査法人(2000年)、朝日監査法人(現・あずさ監査法人)(2002年)を経て、2006年にみずほ証券入社。9年間、債券営業セクションにて金融機関を中心とするソリューション営業に従事し、2015年に金融商品会計と金融規制に特化したコンサルティング・ファームの合同会社新宿経済研究所を設立、現在に至る。株式会社Stand by C顧問。公認会計士開業登録(2004年)。
続きを読む
この著者の記事一覧はこちら

アクセスランキング

24時間
週間
月間
三井住友銀行の売れ筋に見える変化、トランプ関税による世界株安でも安定的な動きを続けた人気ファンドとは?
プラチナNISAだけじゃない!「立国議連」提言書で見逃せない注目ポイント3選
野村證券の売れ筋で「国内株」の人気は浮上、「S&P500」が急落する中で踏みとどまったファンドとは?
三菱UFJ銀行の売れ筋で「日経225」と「S&P500」を再評価、「S&P500」をパフォーマンスで圧倒した人気ファンドとは?
未履行のコミットメントに適用するリスク・ウェイトは何%?
SBI証券で「オルカン」「S&P500」の人気は継続するもののパフォーマンスは悪化、着実にランクアップするファンドとは?
「外国株式型」の純資産が3カ月連続で減少して資金流入にも陰り、パフォーマンスでは「ゴールド」(為替ヘッジあり)が好調=25年4月投信概況
金融庁のKPIランキングでIFAトップ! 財コンサルティング・田中唯社長に聞く
【みさき透】視界不良の「プラチナNISA」、意外に響くネットの評判 
新刊『海外投資家はなぜ、日本に投資するのか』の著者に聞く、日本株のさらなる可能性
ワイズマン廣田綾子氏
野村證券の売れ筋で「国内株」の人気は浮上、「S&P500」が急落する中で踏みとどまったファンドとは?
新刊『海外投資家はなぜ、日本に投資するのか』の著者に聞く、日本株のさらなる可能性
ワイズマン廣田綾子氏
【みさき透】視界不良の「プラチナNISA」、意外に響くネットの評判 
eスマート証券の売れ筋主要インデックスに見えた「トランプ相場」で頼りになるリスクヘッジ手段とは?
「外国株式型」の純資産が3カ月連続で減少して資金流入にも陰り、パフォーマンスでは「ゴールド」(為替ヘッジあり)が好調=25年4月投信概況
三菱UFJ銀行の売れ筋で「日経225」と「S&P500」を再評価、「S&P500」をパフォーマンスで圧倒した人気ファンドとは?
プラチナNISAだけじゃない!「立国議連」提言書で見逃せない注目ポイント3選
プラチナNISA新設に現実味、金融庁の懸念は業界がつい先送りした”アレ”の管理【オフ座談会vol.3:かやば太郎×本石次郎×財研ナオコ】
大和証券の売れ筋上位のアクティブファンドは運用成績にバラつき、株価が上昇に転じた有望ファンドとは?
国内投資促進の圧力が高まる?議連提言書と新資本主義会議が示した機関投資家への「期待」とは
新潟との地銀越境統合は成功するか? 群馬県の金融事情【金融風土記】
プラチナNISAの創設案が映す「森信親イズム」の終焉
プラチナNISA新設に現実味、金融庁の懸念は業界がつい先送りした”アレ”の管理【オフ座談会vol.3:かやば太郎×本石次郎×財研ナオコ】
「支店長! 売れ筋の投資信託を3つ覚えて売れるようになりました。全ての商品を覚える必要はありますか?」
NISAで高齢者に毎月分配型解禁へ 制度の進化か参院選対策か、それとも「自民党・ネオ宏池会」の野望か 
【緊急座談会・みさき透とその仲間たち】
シニア向け「プラチナNISA」で毎月決算型も解禁? 毎月決算型の選び方と使い方
【連載】投信ビジネスのあしたはどっちだ
③トランプ関税でボラティリティが高まる今こそ能動的なフォローを
【連載】藤原延介のアセマネインサイト
⑲高齢者向けNISA創設の報道で再注目される毎月分配型ファンド
プラチナNISAだけじゃない!「立国議連」提言書で見逃せない注目ポイント3選
野村證券の売れ筋で「国内株」の人気は浮上、「S&P500」が急落する中で踏みとどまったファンドとは?
ランキングをもっと見る
finasee Pro(フィナシープロ) | 法人契約プランのご案内
  • 著者・識者一覧
  • 本サイトについて
  • 個人情報の取扱いについて
  • 当社ウェブサイトのご利用にあたって
  • 運営会社
  • 個人情報保護方針
  • アクセスデータの取扱い
  • 特定商取引に関する法律に基づく表示
  • お問い合わせ
  • 資料請求
© 2025 finasee Pro
有料会員限定機能です
有料会員登録はこちら
会員登録がお済みの方ログイン
有料プランの詳細はこちら