静岡県の基幹企業として存在感を示す静岡銀行。同行では、グループの基本理念「地域とともに夢と豊かさを広げます。」のもと、さまざまな取り組みを行っている。その中のひとつである「金融経済教育」について、東部カンパニー プライベートバンキング推進担当課長 長堀新司氏・山本華子氏、そして下田支店 営業グループ担当課長 石田佳子氏、同支店 ライフプランコンサルタント 直井宏輔氏に話を聞きました。
――新NISAが始まり、世間的にも資産運用への興味関心が高まっています。地域に根付く金融機関である静岡銀行として、その地域のファイナンシャルウェルビーイングについてどのように考えていますか?
長堀 しずおかフィナンシャルグループは、2023年に第一次中期経営計画をスタートし、2030年度に目指す状態として、「すべてのステークホルダーがサステナブルかつ幸福度が高まっている状態」を掲げています。
また、ファイナンシャルウェルビーイングについては、地域に根付く金融機関として、地域の金融リテラシーの向上に貢献できるよう、学生を対象とした金融経済教育や取引先従業員(職域)に向けたセミナーなど、資産形成の意義などを伝える活動に取り組んでいます。特に学生に対しては、地域の未来を担う「未来世代」として、中期経営計画においても重要なステークホルダーとして捉えています。
新NISAに関しては、資産形成層が将来にわたってより豊かな生活を実現する上で、重要なツールだと考えており、そういった意味でもお客さまに制度の内容などを説明しています。
――新NISAの登場で、資産形成層が豊かな生活を送ることがより身近なものになったのでしょうか。
長堀 そうですね。やはり政府が目標を定めて推進していますし、インフレの時代の中では取引先企業の従業員の方にとってもNISAを知っているかどうかは、大きな違いになると思います。ですから、NISAの制度を含め、金融リテラシーを高めてもらうことはとても重要だと感じています。
「未来世代」の子供たちに真に求められる金融経済教育を
――金融リテラシー向上のために、具体的に取り組まれていることについて教えてください。
山本 主に沼津市や三島市、下田市など県内の東部地区をカバーする当行の東部カンパニーでは、学生向け、社会人向けの金融経済教育に注力しています。特に高校生に向けては、三島支店にて市内の高校3年生向けに「働くことについて」というテーマで、当行のベンチャービジネスサポート部のメンバーを講師にスタートアップ企業の取り組みなどを紹介しました。また、三島支店・御殿場支店では、御殿場市内の高校3年生を対象に、コモンズ投信に協力をいただき、為替・インフレなどについて経済の内容も交えてお話しました。
石田 私の所属する下田支店では、重要なステークホルダーである「未来世代」をキーワードとして、昨年度の支店目標に「学校へ行こう!」を掲げ、地域の学校に対する金融セミナーを実施しました。こうした活動を通じて、未来世代の子供たちに銀行員として力になりたいという思いとともに、私たちと直接触れ合うことで子供たちが当行のファンになってくれたら…という思いがありました。
下田支店がカバーするエリアは、学校が一つしかない地区もあります。だからこそ、地域の魅力を伝え、地域への誇りと愛着を感じてもらうため、私たちに何ができるのかを考えました。下田市、南伊豆町の小中学校の教頭先生に直接電話して、「生徒さんたちに金融経済教育を行いたい」とお伝えし、協力いただけることになりました。
内容については、事前に先生方と打ち合わせを行い、学校側のニーズに応えるセミナーになるよう心掛けました。私たちとしても、生徒が眠くなってしまうセミナーにはしたくなかったので、念入りにヒアリングを行うなど、準備を重ねて臨みました。具体的には、伝票起票の例題や振込用紙の書き方といった実生活に役立つことから、7月に新紙幣が発行されるので、新しい1万円札に描かれている人物は誰か、といったクイズを取り入れながら、生徒が主体的に参加しやすい工夫を行いました。
このほかにも先生方に「どういった内容が今後の役に立つか?」という投げ掛けをしたところ、「なぜ銀行員になったのか」「今の中学生(小学生・高校生)が何をすべきか」など、金融経済教育以外の「一社会人としてのアドバイス」も伝えてほしい、という意見があり、卒業を控えた高校3年生に対して、実演を交えながらの「接客マナー講座」を行うこともありました。
――金融経済教育という側面以外に、これからの時代を生きていく子供たちに「働くことの意義」のようなこともセミナーでお話されたのですね。銀行員としての本業も担いながら、そういった準備をするのはかなり大変だったのではないでしょうか。
直井 子供たちが視覚的に分かりやすい資料の作成には、私たち行員以外にも図画工作が得意なビジネススタッフの皆さんが協力してくれました。下田支店の皆さんがモチベーション高く取り組んでくれますし、常にアンテナを高く持ってくれているので、大変助けられています。
――実際にセミナーを受講した生徒さんや学校の反応はいかがでしたか?
石田 セミナー終了後に生徒全員にアンケートを実施しており、全校の80%以上から「大変満足」「満足」以上の評価をいただいています。ある学校では95%が「満足」以上の評価で、やったかいがあったと嬉しくなりました。
これまで行ってきた内容は、国が期待しているような金融経済教育には及ばないかもしれませんが、生徒がお金や自分の住む地域に関心を持ち、静岡銀行がどういうことをしているのかなど当行への理解が深まるきっかけになったと思いますし、静岡銀行のプレゼンスを高める非常に良い機会だったと感じています。
また、この活動を通して、支店全体が一つの方向に向かい、これまで以上に一致団結することができました。地域の皆さんの役に立っているということを体感することができ、支店全体のモチベーションアップにもつながりましたし、行内においてもこの金融セミナーの取り組みが評価され、昨年度の行内表彰でビジョン表彰(地域共創部門)を受賞することができました。
地域の人々の「役に立つ」ことが行員のやりがいに、ひいては銀行の未来につながる
――地域を支える金融機関として、より地元の皆さんの役に立っていると感じることが、支店全体の士気も上げたのですね。そういった社会的ニーズに応える御行の取り組みは大変すばらしいですが、実際に業績に結び付けるのはなかなか難しいように感じます。
山本 当行では2021年度に人事評価制度を改定し、OKR(Objectives and Key Results)の考え方を取り入れた評価制度を採用しています。この制度では、役職員一人ひとりが社会へのインパクトを与える存在であると自覚を持ち、中期経営計画で目指すビジョンや地域課題の解決に向けた取り組みや自身の夢と連動した目標を考えて設定し、その目標達成に向けた活動を評価する仕組みになっています。例えば「地域の金融リテラシーを向上させる」という「O(目的)」を掲げ、その成果指標となる「KR」として「お客さま向けのセミナーを年度内に何回やる」などと具体的に設定するわけです。地域の子供たちやお客さまに資産形成の意識を広く伝えることで、将来的な豊かな暮らしのお手伝いをしていることや、活動を通じて地域の皆さまに影響を与えられているということなどが行員のやりがいにつながると考えています。確かに、すぐ業績に結び付くものではないかもしれませんが、長期的な視点で考えれば、当行の業績向上にもつながっていくはずです。
――地域全体の幸福度や豊かさの向上が、将来的に静岡銀行の業績向上にもつながるということですね。そういった活動には、外部の協力もあるのでしょうか。
長堀 先にも述べましたが、コモンズ投信など外部の専門家の協力を得ることもあります。皆さん資産運用のプロですから、そういった知見を金融経済教育の場で提供してもらったりしています。また、現在「社内ベンチャー制度」を通じて進行している企画では、地域の企業とタッグを組んで地域の子供たちに金融経済教育ができないか、ということも考えています。一例を挙げると、県内のチョコレート工房と連携して、カカオの仕入れからチョコレート販売までを体験してもらい、チョコレートづくりを通じて経済の仕組みを学ぶといった取り組みを現在検討中です。
――地域の企業や経済にも触れて、子供たちにとっては大変貴重な体験になりそうです。
長堀 経済や金融の仕組みを知り、リテラシーを高めることは子供たちの未来のために必要ですし、長いスパンではありますが、静岡県経済が発展し続ける上でも個人の資産形成はとても重要なことです。地域とともに成長していく企業として金融経済教育に取り組むことは、収益を獲得するだけではない私たちの義務だと考えています。静岡県経済のため、われわれの大切なお客さまの未来を守るため、やりがいをもって活動を続けています。
――静岡銀行のような姿勢や取り組みをする企業がこれからの地域経済には必要不可欠と感じました。今後の取り組みについても、注目させていただきます。本日はありがとうございました。