動画(約10分)
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――足元の日米株の地合いをどのようにみますか。
金利比較で言うと、まだまだ米国市場の金利が高いので、米国株はPERの状況を見ても相対的に割高であると思います。
その一方で、日本株は金利がそれほど上昇しておらず、まだ金融緩和の状況にあるります。今後どういう形になるかは不透明な部分があるにせよ、バリューエーションを見れば割高ではなく、むしろ相対的に割安といえる可能性が高いでしょう。
日米の金利差の拡大もしくは現状維持を踏まえ、市場では投機筋も含めて円が売られやすい状況にあります。しかし、そういう環境の中で米国経済がリセッションに入ってしまう可能性があるということで、何としてもソフト・ランディングで景気を維持していきたいと(いう思惑もあります)。
足元の雇用は非常に強いものがありますが、例えば2000年代後半から直近までを見てみると、GDPの倍増のうち半分ほどはインフレが要因です。そういう意味では米国経済もかなりダブダブに膨らんでいる状況にあることは否めません。
直近ではハイテク半導体関連の銘柄のウェイトが高まってきているので、それらの銘柄の乱高下が(市場全体の)ボラテリティを高めています。その証左として、S&P500のVIX(恐怖)指数も一時的には19ポイント台まで上がりました。米国ではダウ平均やS&P500の頭を押さえる動きにつながっています。
日本のマーケットは年初から急速に株価を上げ、一時は日経平均で4万円台をつけましたが、ここに来て(米国など海外市場と)同じく調整色が強くなってきました。その大きな要因として、現状の(円安の)為替レートは輸出企業にはプラスに働くものの、残念ながら産業の空洞化も進んでおり、日本の貿易体制は原材料を輸入して加工する傾向が残っています。原材料の値上げを受け、価格転換がどの程度進むかによって企業業績がかなり左右されます。
さらに、果たして名目賃金の上昇以上に実質賃金が上がっていくのか、インフレを加味しても賃金が上がっているのか、さらに企業においては今後も確固たる企業収益を維持していく、または収益を改善するだけのマージンが確保されているのかどうかという見極めが十分つかないあたりで、やや市場が揉み合っているような状況だと思います。
ただし、日本株については方向性としては今すぐに大きく値崩れする展開ではなく、つみたてNISAも始まって定期的な買いが入ってくる状況ですので、さほど不安視することはないでしょう。
振り返ってみて、日本株の「失われた30年」などと言われ、ようやく2023年の暮れあたりから今年の年初にかけて飛躍的にパフォーマンスが伸びたわけですが、その中身をよく見るべきです。
株式市場には流通市場としての側面が注目されやすい一方で、発行市場または調達市場として直接金融の資金調達の場でもあります。日本で昨年行われたIPOを含む資金調達の規模と、上場会社が自社株買いを行った規模を比べると、自社株買いのほうが5倍くらいも大きいのが現状です。
そういう意味では、まだまだ日本の株式市場は本格的にバブル期のような形で企業の資金調達の場になっておらず、また日本国内の企業のみならず、世界のキャピタル・マーケット(資本市場)からしても日本が確固たる金融市場として認められるには大きな隔たりがあります。
実際の株価の上昇には何が影響しているのか。もちろん株主に対する還元や、資本効率(の向上)というのは一つの指標として重要ですが、企業が将来にわたって株価を高めていくエネルギーというのはやはり、企業が生み出していく製品であったり、またはアイデア、知的財産であったり、そういうものが価値を創造して企業価値を向上していくものです。
そういう中で、日本企業が改めてもう一度世界に冠たる地位を築けるかというところが大きなポイントになります。
アメリカにおいてもベトナム戦争以降、レーガノミクスをへて株価が上昇していく過程においては、有形資産から無形資産(インタンジブル・アセット)への移行が大きく進み、ものづくりからアイデアや知的財産といったものが企業価値に対して大きなウェイトを占めています。
残念ながら、いま日本では無形資産の部分が評価されていない、または評価する方法にも長(た)けていません。こういうところが改めて見直されると、今の地合いにおいても株価が再評価される可能性があります。
そういう面では、各上場企業の経営者の方や実際に投資する運用会社のプロフェッショナルの方々が、そういった本質的な企業価値を見極められるかで、日本の株式市場の方向性も大きく変わっていくでしょう。
単に目先の単純な人口動態や為替の動向というよりも、中長期的にそれが何を意味しているのか、それが現時点でどう反映されているのかということを見極めて動くことが重要です。
――改めてアクティブ運用とインデックス運用を比べ、それぞれの有効性や問題点をどのように分析しますか。
私も長い金融ビジネスの経験の中で、アクティブファンドの運用会社にも、クオンツの運用の会社にもおりました。そして、インデックス運用のベースになるインデックス(算出)の仕事に長年携わってきました。(アクティブとパッシブのどちらが有利かは)常に議論になります。
アクティブ運用というのは、それぞれの投資哲学や運用プロセスに基づいて、中長期的な視点で運用していくことを常にうたって高いパフォーマンスを求めます。一方で、そのコストに目を向けると、どうしてもインデックス連動型の商品に比べ、総コストまたは信託報酬がかなり高めに設定されているということで、どうしても中長期的にはそれが足かせになります。
また、インデックス運用と異なり、積極的に売買がなされるような戦略を取っています。見えないところで売買コストがかかり、ポートフォリオの回転、ターンオーバーによって見えないコストが引かれており、パフォーマンスを毀損している可能性もあります。したがって、アクティブ運用については、報酬やプロセスであったり、投資哲学といったものを見極めながら、ある一定のところで判断する必要があります。
お決まりのようにアクティブ運用が叫ばれるのはどのような状況かというと、市場が何らかの特定の業種であったり、銘柄に偏った動きをしている場合です。
簡単にいうと、インデックスではダウ平均でも全30銘柄が同じ方向に動いている、また下がっているというところでは、なかなかパフォーマンスの差がつきにくい。しかし、ごく特定の銘柄、例えば米国のアップルといった銘柄が上昇したり下落したりしているときは、アクティブのウェイトを高めることによってパフォーマンスが出ている傾向もあります。市場の環境、特に個別銘柄間のリターンのバラツキをよく見る必要があります。
牧野義之氏
2008年5月、S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス 日本オフィスに入社。2009年より同社の営業を主管。2010年8月、同社日本オフィス統括となり、日本におけるインデックスビジネスの拡大やETF市場の拡大等に尽力した。2021年9月末同社を定年退職。2022年4月1日より、株式会社JPX総研 エグゼクティブアドバイザー就任。内外のインデックスビジネスやパッシブ運用に関する動向についての情報収集を担当。
2022年10月より、株式会社想研の次世代アセット・インサイト2030の創設に際して、同企画のアンバサダーに就任した。S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス入社前は、ソシエテ・ジェネラル傘下のリクソー・アセット、アクサ・ローゼンバーグ(現アクサ・インベストメント・マネージャーズ)、フランクリン・テンプルトン等の日本法人で年金基金など機関投資家を主とした営業の責任者等を務める。さらに、山一證券勤務時代は、支店法人営業、香港現地法人、インドネシア合弁会社、本社国際企画部にて営業並びに企画業務を担当。