ESG投信の新規設定の推移を振り返ると、21年に年間93本でピークをつけています。その後はブレーキがかかり、四半期ごとでみると23年1Qは新規設定が3本にとどまってブーム到来以降最少となりました。
勢いが落ちた背景には、実態の伴わないサステナブル商品が乱立しないよう、事業者ににらみを効かせてきた規制当局の存在があります。
金融庁が22年5月に公表した「資産運用業高度化プログレスレポート2022」では、ESG投信の組成、運営に関する体制整備と情報開示に関する課題を指摘。これを踏まえ、翌23年3月には監督指針が改正されて、金融事業者がESG投信を手掛けること自体のハードルが引き上げられることになりました。
業界側に委縮ムードが広がり、ESG投信の設定はかつてと比べるとすっかり下火になったようにみえますが、ここに来て風向きが変わりつつあります。
岸田文雄首相は23年10月の講演で、「NISAを活用した日本の一般投資家からグローバルな投資家まで、幅広い投資家層に魅力的なGXに関する投資商品の開発を促進する」と発言。GX、ESG投資を進展させるための環境整備を表明しました。
首相の発言を受けるかたちで、金融庁で同年12月、ESG関連商品の環境整備などについて官民で協議の場として「サステナビリティ投資商品の充実に向けたダイアログ」(以下、ダイアログ)の初会合が開かれました。
第1回会合には、金融機関、業界団体などの幹部らが参加。金融機関の国内勢では大和証券、みずほ銀行、三菱UFJアセットマネジメントなど、外資系ではブラックロック・ジャパンなどの代表らが出席しました。
金融庁は提出資料の中で、先述したようなESG投信の市場の動向を、規制強化の経緯とともに説明しました。そのうえで、サステナブル投信の資産残高の国際比較を紹介。欧州2.3兆ドル程度、米国3000億ドル程度と比べ、日本は230億ドルと、市場規模にケタ違いの差があることを強調しました。
また、ESG投信を含めたアクティブ運用に拡大余地の大きさを指摘。締め付けを強めてきたこれまでの政策方針と矛盾しないよう表現を抑制しつつ、当局としてもESG投信の拡充に舵を切る考えをにじませています。
ダイアログは今年6月までに計4回ほど開催し、投資商品の充実に向けた「メッセージ」を取りまとめる予定です。
経済安保、スタートアップ支援の議論と接近か
なぜ国は、ESG投信への態度を変化させたのでしょうか。
注目したいのは、インパクト投資を含めたサステナビリティ投資に関する議論が、足元で経済安全保障やスタートアップ支援など、政府の掲げる他の主要政策課題との関連性を急速に強めているという点です。
関係者によれば、ある自民党有力中堅議員は立国プラン策定後の集会で、資産運用立国実現プランと経済安全保障の関連性を強調。サプライチェーンの分断が拡大する世界情勢下で、国内スタートアップを含めイノベーションを創出する事業者にシードマネーを供給する必要があるという趣旨の説明で、金融機関に協力を呼びかけたといいます。
立国プランの目玉施策の一つである金融資産運用特区についても、名乗りを上げている候補地ではサステナビリティ投資をスタートアップ支援、国産エネルギー拡大などと結びつける誘致計画が次々に打ち出されています。
欧米ではESGをめぐる議論の政治的な色合いが顕著になっていますが、ある意味で日本においても、サステナビリティは政権カラーを反映しやすい領域になりつつあるといえるでしょう。今後、商品拡充の議論に際しては、主要政策テーマと親和性の高い投資手法を推進する機運がいっそう高まる可能性があります。