finasee Pro(フィナシープロ)
新規登録
ログイン
新着 人気 特集・連載 リテール&ウェルス 有価証券運用 金融機関経営 ビジネス動画 サーベイレポート

金融庁、一周回ってESG投信推進のナゼ 「経済安保」と相関も

川辺 和将
川辺 和将
金融ジャーナリスト
2024.01.17
会員限定
金融庁、一周回ってESG投信推進のナゼ 「経済安保」と相関も

金融庁はこれまで、グリーンウォッシングへの懸念から、ESG投信に対してどちらかといえば市場拡大に慎重な立場を取ってきました。が、ここにきて一転、商品拡充を推進する方針を打ち出しています。首相肝いりの専門家会合は今年夏ごろにも、サステナビリティ商品充実に向けた環境整備を官民で推し進めるための「メッセージ」を発出する見通しです。国が一周まわってESG投信にポジティブな姿勢を取るようになった経緯と、今後の展望を解説します。

ESG投信の新規設定の推移を振り返ると、21年に年間93本でピークをつけています。その後はブレーキがかかり、四半期ごとでみると23年1Qは新規設定が3本にとどまってブーム到来以降最少となりました。

勢いが落ちた背景には、実態の伴わないサステナブル商品が乱立しないよう、事業者ににらみを効かせてきた規制当局の存在があります。

金融庁が22年5月に公表した「資産運用業高度化プログレスレポート2022」では、ESG投信の組成、運営に関する体制整備と情報開示に関する課題を指摘。これを踏まえ、翌23年3月には監督指針が改正されて、金融事業者がESG投信を手掛けること自体のハードルが引き上げられることになりました。

 

業界側に委縮ムードが広がり、ESG投信の設定はかつてと比べるとすっかり下火になったようにみえますが、ここに来て風向きが変わりつつあります。

岸田文雄首相は23年10月の講演で、「NISAを活用した日本の一般投資家からグローバルな投資家まで、幅広い投資家層に魅力的なGXに関する投資商品の開発を促進する」と発言。GX、ESG投資を進展させるための環境整備を表明しました。

首相の発言を受けるかたちで、金融庁で同年12月、ESG関連商品の環境整備などについて官民で協議の場として「サステナビリティ投資商品の充実に向けたダイアログ」(以下、ダイアログ)の初会合が開かれました。

第1回会合には、金融機関、業界団体などの幹部らが参加。金融機関の国内勢では大和証券、みずほ銀行、三菱UFJアセットマネジメントなど、外資系ではブラックロック・ジャパンなどの代表らが出席しました。

金融庁は提出資料の中で、先述したようなESG投信の市場の動向を、規制強化の経緯とともに説明しました。そのうえで、サステナブル投信の資産残高の国際比較を紹介。欧州2.3兆ドル程度、米国3000億ドル程度と比べ、日本は230億ドルと、市場規模にケタ違いの差があることを強調しました。

また、ESG投信を含めたアクティブ運用に拡大余地の大きさを指摘。締め付けを強めてきたこれまでの政策方針と矛盾しないよう表現を抑制しつつ、当局としてもESG投信の拡充に舵を切る考えをにじませています。

ダイアログは今年6月までに計4回ほど開催し、投資商品の充実に向けた「メッセージ」を取りまとめる予定です。

 

経済安保、スタートアップ支援の議論と接近か

なぜ国は、ESG投信への態度を変化させたのでしょうか。

注目したいのは、インパクト投資を含めたサステナビリティ投資に関する議論が、足元で経済安全保障やスタートアップ支援など、政府の掲げる他の主要政策課題との関連性を急速に強めているという点です。

関係者によれば、ある自民党有力中堅議員は立国プラン策定後の集会で、資産運用立国実現プランと経済安全保障の関連性を強調。サプライチェーンの分断が拡大する世界情勢下で、国内スタートアップを含めイノベーションを創出する事業者にシードマネーを供給する必要があるという趣旨の説明で、金融機関に協力を呼びかけたといいます。

立国プランの目玉施策の一つである金融資産運用特区についても、名乗りを上げている候補地ではサステナビリティ投資をスタートアップ支援、国産エネルギー拡大などと結びつける誘致計画が次々に打ち出されています。

欧米ではESGをめぐる議論の政治的な色合いが顕著になっていますが、ある意味で日本においても、サステナビリティは政権カラーを反映しやすい領域になりつつあるといえるでしょう。今後、商品拡充の議論に際しては、主要政策テーマと親和性の高い投資手法を推進する機運がいっそう高まる可能性があります。

続きを読むには…
この記事は会員限定です
会員登録がお済みの方ログイン
ご登録いただくと、オリジナルコンテンツを無料でご覧いただけます。
投資信託販売会社様(無料)はこちら
上記以外の企業様(有料)はこちら
※会員登録は、金融業界(銀行、証券、信金、IFA法人、保険代理店)にお勤めの方を対象にしております。
法人会員とは別に、個人で登録する読者モニター会員を募集しています。 読者モニター会員の登録はこちら
※投資信託の販売に携わる会社にお勤めの方に限定しております。
モニター会員は、投資信託の販売に携わる企業にお勤めで、以下にご協力いただける方を対象としております。
・モニター向けアンケートへの回答
・運用会社ブランドインテグレーション評価調査の回答
・その他各種アンケートへの回答協力
1

関連キーワード

  • #金融庁
  • #ESG・SDGs
  • #公募投信

おすすめの記事

【連載】藤原延介のアセマネインサイト㉑
パフォーマンス好調な欧州株ファンドに約11年ぶり高水準の資金流入

藤原 延介

【プロが解説】「服の製造小売り」は、デジタル力による顧客ニーズ対応と、「捨てない社会」のマネタイズ化が今後の市場発展のカギ

上野 武昭

新プログレスレポートと金融庁幹部人事の背景を読む、キーワードは「官邸の弱体化」と「尻に火が付いた暗号資産対策」
【オフ座談会vol.6:かやば太郎×本石次郎×財研ナオコ】

finasee Pro 編集部

【みさき透】金融庁はなぜ毎月分配型に「免罪符」を与える気になったのか

みさき透

不安定な市場環境で「利回り」と「信用力」の高さを併せ持つ米国地方債にチャンス=フランクリン・テンプルトン・アメリカ地方債ファンドが設定3周年

finasee Pro 編集部

著者情報

川辺 和将
かわべ かずまさ
金融ジャーナリスト
金融ジャーナリスト、「霞が関文学」評論家。毎日新聞社に入社後、長野支局で警察、経済、政治取材を、東京本社政治部で首相官邸番を担当。金融専門誌の当局取材担当を経て2022年1月に独立し、主に金融業界の「顧客本位」定着に向けた政策動向を追いつつ官民双方の取材を続けている。株式会社ブルーベル代表。東京大院(比較文学比較文化研究室)修了。
続きを読む
この著者の記事一覧はこちら

アクセスランキング

24時間
週間
月間
【連載】藤原延介のアセマネインサイト㉑
パフォーマンス好調な欧州株ファンドに約11年ぶり高水準の資金流入
新プログレスレポートと金融庁幹部人事の背景を読む、キーワードは「官邸の弱体化」と「尻に火が付いた暗号資産対策」
【オフ座談会vol.6:かやば太郎×本石次郎×財研ナオコ】
「支店長! 一般職に投信のセールスをしろとおっしゃいますが、日常業務が忙しくてとても無理です!」
【みさき透】金融庁はなぜ毎月分配型に「免罪符」を与える気になったのか
【文月つむぎ】伊藤豊氏が金融庁長官に就任へ 
知っておきたい新長官&3局長の横顔
【連載】投信ビジネスのあしたはどっちだ
資産形成を達成した後…「次なる課題」
金融庁が「プログレスレポート2024」の公表を休止した深いワケ 「FDレポート」との違いが出せなくなった?
「自立と連携」を掲げて試行錯誤を重ね、確立された「銀証連携」モデルが新時代を拓く case of しずおかフィナンシャルグループ
【みさき透】金融庁、資産運用業の監督体制を再編、担当参事官に永山玲奈氏
ターゲットは“デジタル富裕層”―SMBCグループとSBIグループの新会社設立により「Olive」に新たな“プレミアムクラス”
【文月つむぎ】伊藤豊氏が金融庁長官に就任へ 
知っておきたい新長官&3局長の横顔
新プログレスレポートと金融庁幹部人事の背景を読む、キーワードは「官邸の弱体化」と「尻に火が付いた暗号資産対策」
【オフ座談会vol.6:かやば太郎×本石次郎×財研ナオコ】
【連載】投信ビジネスのあしたはどっちだ
資産形成を達成した後…「次なる課題」
静銀ティーエム証券の売れ筋で際立つパフォーマンスをみせた「モノポリー戦略株式」とは?
【みさき透】金融庁はなぜ毎月分配型に「免罪符」を与える気になったのか
「支店長! 一般職に投信のセールスをしろとおっしゃいますが、日常業務が忙しくてとても無理です!」
【連載】藤原延介のアセマネインサイト㉑
パフォーマンス好調な欧州株ファンドに約11年ぶり高水準の資金流入
【金融風土記】宮崎県には地方創生の「優等生」も! 地域金融機関の集約が進む
金融庁が「プログレスレポート2024」の公表を休止した深いワケ 「FDレポート」との違いが出せなくなった?
不安定な市場環境で「利回り」と「信用力」の高さを併せ持つ米国地方債にチャンス=フランクリン・テンプルトン・アメリカ地方債ファンドが設定3周年

「自立と連携」を掲げて試行錯誤を重ね、確立された「銀証連携」モデルが新時代を拓く case of しずおかフィナンシャルグループ
投信ビジネスに携わる金融のプロに聞く!「自分が買いたい」ファンド【アクティブファンド編】
【文月つむぎ】投信だけでなく保険販売でもFDを徹底できるか?知っておきたい「保険業法」改正のポイント
【文月つむぎ】「プラチナNISA」という言葉がない!自民党金融調査会の最新提言を読み解く
「支店長! 一般職に投信のセールスをしろとおっしゃいますが、日常業務が忙しくてとても無理です!」
【文月つむぎ】伊藤豊氏が金融庁長官に就任へ 
知っておきたい新長官&3局長の横顔
いわき信組の不正を見抜けなかった金融庁、「根本的な人員不足」も背景
浪川攻の一刀両断
手数料自由化とファンドラップから見る日本と米国の証券リテール改革の相違
三菱UFJMS証券の売れ筋にみえる国内株式ファンドへの期待、物価高で苦しむ年金生活者を支えるファンドとは?
外貨関連を軸に多彩なサービスを展開顧客の信頼を勝ち取る「総資産アプローチ」case of SMBC信託銀行
ランキングをもっと見る
finasee Pro(フィナシープロ) | 法人契約プランのご案内
  • 著者・識者一覧
  • 本サイトについて
  • 個人情報の取扱いについて
  • 当社ウェブサイトのご利用にあたって
  • 運営会社
  • 個人情報保護方針
  • アクセスデータの取扱い
  • 特定商取引に関する法律に基づく表示
  • お問い合わせ
  • 資料請求
© 2025 finasee Pro
有料会員限定機能です
有料会員登録はこちら
会員登録がお済みの方ログイン
有料プランの詳細はこちら