レジェンドが体現する「フィデリティ」の真実
徹底した企業調査によって確信度の高い銘柄を選び抜くというボトムアップの考え方は、日本の運用拠点でも当然、共有されている。各地のアナリストは、それぞれの担当業界について地域を横断して意見交換を行うミーティングを定期的に開催している。また、「リサーチ・トリップ」と呼んでいる現地視察ツアーは、現地の調査拠点が「リサーチ・トリップ」に合わせて主要企業とのミーティングをセッティングしているため、非常に効率的な現地視察を可能にしている。今井氏は、他の外資系運用会社で経験を積んでフィデリティに入社した運用担当者は、「グローバルな情報共有が、本当にフィデリティでは実践されている」と同じように言うと紹介する。
このような情報共有は、拠点間という横のつながりだけではない。フィデリティ投信の運用担当者やアナリストは誰でも、現在ではフィデリティ・ジャパン・ホールディングス副会長を務め、かつては、フィデリティ・ジャパンの社長など要職を歴任した蔵元康雄氏が1969年のフィデリティ・マネジメント・アンド・リサーチカンパニー東京駐在員事務所時代に、国内企業を調査してまとめたレポートや運用の成功例・失敗例などを自由に読むことができるという。日本で50年以上にわたって積み重ねられた調査や考察の歴史という「縦(歴史と経験)のつながり」もまた、余すところなく活用する。フィデリティの「誠実さ」は、このようなボトムアップのあくなき追求に集約されているようだ。
今井氏は、フィデリティの企業文化を印象的に感じ取った瞬間として、コロナ禍で株式市場がマヒしてしまった時の出来事を語った。その時、フィデリティ・インターナショナルの伝説的なポートフォリオ・マネージャーであるアントニー・ボルトン氏(「フィデリティ・スペシャル・シチュエーション・ファンド」は、担当した1979年から28年間で年率約19%の運用実績を残す)が、フィデリティ・インターナショナルの全運用担当者の前に出て、不安でも疑問でも何でも質問に答えるミーティングが開催された。フィデリティの運用を象徴する伝説的なマネージャーが直接対話した背景は、「数十年に一度あるような大きな変化には誰でも戸惑う。何十年も市場と向き合ってきた者の経験が助けになることもあるだろう」という考えに基づいた行動だった。一人ひとりの経験や知見を広く共有し、運用に全力で取り組む「フィデリティ」の真実の姿が垣間見えた瞬間だった。