フィデリティのボトムアップの系譜
「フィデリティの運用力」を象徴する存在の1つが、「フィデリティ・マゼラン・ファンド」かもしれない。運用担当のピーター・リンチ氏は、米国を代表する伝説的なポートフォリオ・マネージャーの1人に数えられる。「マゼラン・ファンド」の運用を担当した1977年5月~1990年5月までの13年間で基準価額が約28倍に上昇するという驚異的なパフォーマンスを残した。この間のNYダウの上昇は約3.2倍(898ドルから2,876ドル)であることと比較すると、いかに驚異的なパフォーマンスであったかがわかる。このピーター・リンチ氏はボトム・アップ・アプローチ(徹底した企業調査)による投資を行った。「10社の調査を行えば見通しが明るくなっている企業が1社はある。50社調査すれば5社は、そのような企業だろう。」このピーター・リンチの言葉に、「フィデリティのボトムアップ・アプローチ」の根幹がある。なぜなら、フィデリティの運用担当者は、誰もが多かれ少なかれピーター・リンチ氏に憧れ、ピーター・リンチ氏と一緒に仕事がしたいと考えてアナリストとして入社している。
たとえば、「フィデリティ・世界割安成長株投信(愛称:テンバガー・ハンター)」を運用するジョエル・ティリングハスト氏は、ピーター・リンチ氏に採用され、1986年にフィデリティに入社し、ピーター・リンチ氏に学んだ1人だ。ジョエル・ティリングハスト氏が「テンバガー・ハンター」と同様の戦略で運用する「フィデリティ・ロープライス・ストック・ファンド」は、1989年12月の設定から2022年12月まで33年間で基準価額が約55倍に上昇した。この成績によって、ジョエル・ティリングハスト氏はピーター・リンチ氏から「歴史を通じて最も偉大、かつ、成功したストックピッカーの1人」と評価された。
そして、ジョエル・ティリングハスト氏の薫陶を受けて成長したポートフォリオ・マネージャーで、近年、頭角を現しているのが「フィデリティ・グロース・オポチュニティ・ファンド」の運用を担当しているカイル・ウィーバー氏だ。カイル・ウィーバー氏が運用を担当する米国籍投信は、2009年2月の設定から2022年12月末まで米S&P500指数(税引き前配当込み)が9.33倍に上昇する中で13.24倍という成績を残している。割安な成長株に選別投資する「テンバガー・ハンター」と、高成長銘柄を選んで投資する「フィデリティ・グロース・オポチュニティ・ファンド」では商品コンセプトが大きく異なっているが、徹底したボトムアップ・アプローチによって投資対象を絞り込むという手法は同じだ。カイル・ウィーバー氏は、ジョエル・ティリングハスト氏から、「運用担当者の仕事は、銘柄の価値と価格を比較することである。次に何が起こるかではなく、その価値が何であるかに注目することだ」と言われたことが忘れられないと語っている。