休養の中で見つけた余白
退院した翔子は会社に事情を話し、たまっていた有給を使うことにした。シルバーウィークも近かったため、それと合わせると久しぶりにまとまった休みを取ることができた。
最初の数日は特に何をすることもなく、目覚ましをかけずに寝て、起きてからゆっくりと朝食を取った。平日の昼間に家で過ごしていると、仕事を休んでいることへの罪悪感が湧いてくることもあったが、休むのが今の自分の仕事だと言い聞かせた。そうやって過ごしていると、徐々に気持ちも楽になっていった。
「顔色、ずいぶんよくなったね」
その日は日曜日で、栄司はキッチンで昼食の片づけをしながら、ソファに座る翔子に言った。
まだ不調の原因について医師の説明を受ける前、冷たい言葉を吐いてしまったことを栄司は彼なりに後悔しているらしく、倒れて以来、積極的に片づけや掃除をしてくれるようになっていた。
「そう? でも自分でもかなり良くなってる感じはするかも」
「そうか。よかった。でも無理はするなよ?」
「うん。気を付ける。あ、でもね、ちょっと趣味でも見つけようかなって」
「趣味?」
栄司は首をかしげた。
「ほら、駅前にヨガ教室あるでしょ。ちょっと体験で行ってみようかなって」
「へえ、そういうのに興味あったんだ」
「うん。ちょっと前から気にはなってたんだ。これまで趣味らしい趣味もなかったし、無理のない範囲で軽く体を動かしたり、気分転換したりするのもいいってお医者さんが言ってたし、ちょうどいいかなって思ったの」
「いいじゃん。いろいろやってみなよ」
「うん、いろいろやってみる」
少し前なら何か新しいことを始めてみようとすら思わなかっただろう。だから、こうして何かをやってみようと思えたことが、翔子には少しうれしかった。
翔子はソファの上で伸びをする。夏の終わりのまだしぶとく強い日差しすら、心地よいものに思えて、気持ちよさそうに目を細めた。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
