夏バテと思っていた夫が動揺

「でも急に倒れるなんてな……。貧血とかか?」

翔子は首を横に振った。

「お医者さんが言うには、いわゆる9月病と呼ばれるような不調かもしれないって」

「……何それ? 5月病なら聞いたことはあるけど」

疑問を持っている栄司に翔子は先ほど聞いた話を説明した。

「正式な病名じゃないみたいなんだけど、9月くらいになると心とか体の調子を崩すことが多くなるんだって。夏の暑さでたまった疲れとか、季節の変わり目の気温の変化とか、お盆休みが終わって生活のリズムが変わることとか、いろんなことが原因で起こるみたいなんだけどね。夏バテってわけじゃなくて、心と体の両方が疲れちゃってたみたい」

「……そうだったのか」

「このままずっと無理してたら、もっと気分が落ち込んでうつみたいな状態になる可能性もあったって言われたわ」

翔子がそう言うと、栄司はことの重大さを痛感したように眉間にしわを寄せていた。そしてしばらく黙り込んだあと、ゆっくりと頭を下げた。

「……ごめん。俺、全然たいしたことだと思ってなかった。単なる夏バテで食事と睡眠ですぐに良くなると思い込んでた。翔子が大変な思いをしてるのに、それを分かってなかった」

反省を口にする栄司に翔子は声をかけた。

「そんなに気にすることじゃないわよ。私自身、そこまで重いものだって全然思ってなかったし」

「甘ったれてるって笑われるぞなんて言うべきじゃなかったよな。あの言葉のせいで翔子を追い詰めてしまった……」

「やめてよ。あれはあなたが私の会社での立場を心配して言ってくれたって分かってるから」

栄司はまたしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと顔を上げた。

「……今はどんな状態なんだ?」

「まだ体はだるい感じはあるかなぁ。でもなんだろう、原因が分かって少し気は楽になったかな。ここ最近は一生このままなんじゃないかなって不安だったから。まずはしっかり休んで、必要ならまた受診するようにお医者さんも言ってくれてたし」

仕事に行けないわけでもないし、普段の生活に大きな支障があるわけでもなかった。ただ、今となっては体がずっと休んでほしいと訴えていたのが理解できた。

「そうか。じゃあ仕事はしばらく休んだ方がいいな」

「……うん。有給もたまってるし使って休もうかなと思う」