「こうするしかなかったんですよ」

結局、幸也さんが譲歩することとなった。総一郎さんとの間で決まった7割ではなく、半分で遺産分割に応じることになった。

つまり、健彦さんの遺産は、幸也さんが2分の1、残りの2分の1を総一郎さんの子である雄太さんと健斗さんが相続するという形で決着した。

約10年前に兄弟間で円満に決まっていたにもかかわらず、遺産分割協議書の作成を怠り、実物の財産の分割も実行されていなかったため、覆ってしまったわけだ。

幸也さんは当時の心境をこう語る。

「争ったところで証拠もないし、世間体も考えると、こうするしかなかったんですよ」

もし、幸也さんと総一郎さんとの間で遺産分割協議書が作られているか、あるいは実際に財産の移転が完了していれば、幸也さんは7割相続できていたはずだ。

幸也さんはさらにこう語る。

「相続が円満に終わっても、その後どうなるかは分からない。相続手続きは速やかに最後まで終わらせるべきだと痛感しました」

筆者もまったく同感である。相続において手続きを後伸ばしにすることに何のメリットもない。できるだけ速やかに遺産分割協議書を作成し、財産の移転まで済ませてしまうべきだ。

相続では何が起こるか分からない。円満であろうが、そうでなかろうが、速やかに手続きを完了させることが大切だ。

何らの証拠もなく「当事者間で話はついている」というのは通用しない。

読者諸兄においては一度決まった相続であってもしっかり最後まで手続きすることを絶対に怠らないでいただきたい。

でなければ、幸也さんのように、兄弟の子どもと揉めた挙句、本来相続するはずの財産まで失うことになってしまう。

 

※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。