遺産分割協議書を作成しなかった

通常、遺産分割が終わると、その内容を遺産分割協議書という書面で残すのだが、幸也さんと総一郎さんはそれをしなかった。

それどころか、実際に財産の名義変更をしたり、分配することもないままだった。

2人の間ではすでに相続は終わっており、残りのことは「いつでもできるから急がなくてもいいだろう」という感覚だったからだ。

「話はついているから、急がなくていいだろう」幸也さんもそう言っていた。

「そうだな」総一郎さんもそう答えていたという。

実際に、遺産分割の際に大きな争いもなく、感情的な対立もない円満な相続では、こういった雰囲気が生まれやすい。

だが、このような先延ばしは実は非常に危うい。人やそれを取り巻く環境は日々移り変わっていく。今日と同じ家族関係が、数年後も続いているとは限らないのだ。

「弟の急死」で覆る

遺産分割についての手続きがなされないまま10年近くの月日が過ぎた。そんなある日、弟の総一郎さんが急に亡くなってしまう。

総一郎さんの財産は、彼の子どもである雄太さん、健斗さんの2人が相続することになった。

これが、幸也さんと総一郎さんの相続についての取り決めにも影響することになった。総一郎さんが相続するはずの財産は、その子供である雄太さんと健斗さんが相続するからだ。

兄・幸也さんが7割を相続すると話がまとまっていたが、実際には遺産分割協議書もなければ、財産の移転手続きも終わっていない。外形的には何も決まっていないと言っても過言ではないわけだ。

そのため、雄太さんや健斗さんからすれば、改めて幸也さんと遺産分割しなければならないと考えるのが当然となる。この仕組みを代襲相続という。

この代襲相続において、雄太さんと健斗さんは、「5割ずつの等分の相続にするべきだ」と主張し、これが大きなトラブルに発展することになった。

●幸也さんは弟と合意した「7割」を相続できるのでしょうか。後編【「ぶっちゃけ怪しいですよ」2人の甥が疑いの目を向ける…弟の急死で窮地に陥った兄が泣く泣く譲歩した理由】では、遺産分割協議書の重要性について解説します。

 

※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。