キッチンで起きた新たな火種

「何これ? ほとんど味がないじゃない。あなた、こんなのを璃空にいつも食べさせてるの? 食育って言葉、知ってる?」

「いや、ちゃんと味噌で味付けはしてますよ……」

「もうすぐ1歳になるのに、こんな味気ないものを食べさせられて……璃空が不憫だわ」

そう言って調理台に置いていた味噌を手に取って勝手に味を加えようとした真理子を、楓は慌てて止めに入った。

「ちょっと、何してるんですか!」

「何よ? あなたの代わりにやってあげようとしてるのに、毒でも入れようとしているのを止めるみたいな顔して」

お前が勝手に入れた調味料は毒だろうが、と思いながら口には出さず、楓はつとめて笑顔をつくった。

「味付けは私に任せてもらえないですか? 私なりに璃空のことを考えてやっていることなので」

しかし真理子は苛立った様子で言い返してくる。

「あなたがちゃんとできてないから私がこうしてやってあげてるの。口うるさいって思うかもしれないけどね、璃空に何かあってからじゃ遅いんだから」

「うちにはうちのやり方が……!」

さすがに我慢の限界だ。そう思って楓が声を荒げた瞬間、璃空の泣き叫ぶ声が家じゅうに響き渡った。

楓は真理子を押しのけて、璃空のもとへと向かった。

璃空はテレビの近くに寝転がり泣きわめいていて、近くには真理子が持って来た兜が倒れていた。飾り台は斜めにずれ、兜を支えていた部品も床に散らばっている。

最近の璃空は何にでも手を伸ばして立とうとするようになっていた。おそらくテレビボードか飾り台に手をついた拍子に兜の支えに触れてしまったのだろう。そのせいで兜が崩れ落ちてしまったのだ。

楓は璃空を抱きかかえた。すると真っ赤になった璃空の頬に鮮やかな赤い線が一本走っていることに気付いた。血だった。

「だ、大丈夫なのか⁉」

裕太と良太郎は楓のそばでうろたえている。

「かすり傷だと思うけど、念のために病院に電話してくれる?」

「わ、分かった」

そう言うと裕太は休日でも診てもらえる病院に電話をかけた。

「璃空、すぐに病院に行くから安心してね」

楓は璃空に声をかける。すると背後から大きなため息が聞こえてきた。

「ほら、もう言わんこっちゃないわ。璃空のことを放っておくからこんなことになるのよ。料理をしながらでも子どものことを気にかけないと」

真理子の嘲るようなひと言に、楓の中で何かが切れた。