息子の笑顔と父の熱意
入部の申し込みは、その週のうちに済んだ。
翔太は仕事から帰るなり、クラブの案内メールを開き、リビングのテーブルに資料を並べた。入会金、月謝、年会費。そこまでは、実花も習い事なら必要だろうと思っていた。しかし、読み進めるうちに、ユニフォーム一式、練習着、指定ソックス、バッグ、ボール、トレーニングシューズと、用意するものが次々に出てきた。
「うわ、こんなに要るんだね」
実花が思わず言うと、翔太は資料から顔も上げずに答えた。
「ちゃんとしたクラブだからな。初期費用はそれなりにあるよ」
「でも、月謝以外にも結構お金かかるんだね。試合参加費とか、交通費とか、学年が上がると合宿費もあるみたいだし」
「仕方ないだろ。本気でやるなら、それくらいは覚悟しないと」
週末、3人でスポーツ用品店へ行った。店内には色とりどりのトレーニングシューズやボールが並び、洋翔は目を輝かせた。翔太は指定のメモを片手に、慣れた様子でサイズを確認していく。
「洋翔、これはどうだ?」
「赤いの、かっこいい! 足速くなりそう!」
「だろ? ちょっと履いてみろ。きつくないか?」
「うん、平気」
「お、いいじゃん。足元が決まると気分も上がるぞ」
洋翔はシューズの色を気にしているだけで、練習道具として捉えているのかは分からない。それでも盛り上がっている父子を見ると、口を挟みにくかった。
一通り買い物を終え、会計の金額が表示された瞬間、実花は思わず目を見張った。
予想していたより、ずっと高い。翔太は財布を出しながら平然としていたが、実花の頭には今月の食費や固定費が浮かんだ。
帰宅後、実花はレシートとクラブの資料をもう一度見比べた。洋翔は買ったばかりのボールを転がし、翔太はその横で楽しそうに自主トレのやり方を教えている。
「ねえ、翔太。サッカー続けるなら、これからもっと費用が増えるよね。3年生になったらスパイクも買うんでしょ」
「まあな」
「サイズアウトするたびに買い直さないといけないし、合宿とか遠征もあるなら、ちゃんと考えたほうがいいと思うんだけど」
翔太は少し面倒そうに息を吐いた。
「実花には分からないかもしれないけど、スポーツって、ある程度お金がかかるものなんだよ」
突き放すような翔太の一言に、実花は思わず返す言葉を失った。
実際、実花には本格的なスポーツ経験がない。分からないと言われてしまえば、それ以上踏み込む方法が見つからなかった。
リビングの隅で、新しいボールを小さく弾ませている洋翔を見て、実花は自分の不安がひどく見当違いなものに思えてしまった。
