健也が思い知った自分の傲慢さ
流しに皿を運んだとき、不意に春実の声が頭に浮かんだ。
「脱いだ靴下、裏返しのまま入れないで」
「食べた食器くらい運んで」
「洗剤、もうないから買っておいてね」
あのとき、自分はどう返していただろう。
「細かいな」
「疲れてるんだよ」
「気づいたほうがやったほうが早いだろ」
あまりの身勝手さに喉の奥が詰まるようだった。
自分はただ家事をしていなかっただけではない。春実の負担を見ようともせず、頼まれごとを面倒そうに払いのけ、そのくせ不満だけは一人前に言っていた。
「仕事で疲れてるのは、自分だけじゃないのにな」
健也はシンクの前でうつむいた。
50手前にもなって、家事の大変さも、隣にいた相手の疲れにも気づかなかった自分が情けない。
しかし、それでもひとつだけはっきりしていることがあった。まずは心から謝らなければならない。自分は春実に対して、あまりにも鈍く、傲慢だったのだから。
濡れた手を拭きながら、健也は何度も大きく息を吐いた。
