2人で見直す家計簿
真里はエプロンで手を拭き、ゆっくり息をついた。
「私も、通帳を隠してたのはよくなかったと思う」
「いや……」
「聞いて。あなたが嫌な顔すると思ったのもあるし、言ったらすぐ別の支払いに回されそうで、つい黙ってた。でも、あなたの言う通り、家のお金なんだから、ちゃんと話しておくべきだった」
悟志は黙ってうなずいた。真里はそのままダイニングテーブルに移り、置きっぱなしだった家計簿のノートを引き寄せる。
「せっかくだから、今のうちに見直す? あなたこの前、やろうとしてたんでしょ?」
「今からか」
「じゃないと、また先延ばしになるでしょ」
真里らしい物言いだった。促されるまま悟志も向かいに座る。通信費、保険、塾代の見込み、進学に向けてこれから増える出費。知らない支出もあれば、逆に思ったより抑えられている項目もあった。
「一応言っとくけど、この口座のお金、全部好きに使うつもりだったわけじゃないよ」
真里が通帳をテーブルに置く。
「わかってる」
「万が一受験に失敗して浪人するときとか、誰かが入院したのに保険がきかないときとか、そういうの」
「……うん」
悟志は通帳から視線を外し、真里の顔を見た。
「お茶でも淹れようか」
「うん、お願い」
テーブルの上には通帳と家計簿、明細が並んでいる。静かな夜のダイニングは、間もなく柔らかい茶葉の香りで包まれた。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
