写真に写る笑顔と冴子の涙
奨学金を借りて家から通える地元の大学へ進学したこと。冴子に黙って、アルバイト代から教科書を買っていたこと。袴はいらないと言ったこと。その全部が、画面の中の1枚に押し込められている気がした。
大学の4年間に限った話ではない。小さいころから、この子はずっとこうして自分の中で折り合いをつけてきたのではないか。冴子を困らせないように、笑顔を絶やさず、何もかも飲み込んで、今日まで生きてきたのではないか。
「……で、これが、ゼミの先生だよ。すんごい髭でしょ? だから学生たちから陰でカーネルって……お母さん?」
未来の呼びかけで、冴子は自分が黙り込んでいたことに気づいた。
「どうしたの? 大丈夫?」
「……ごめんね」
口から出たのは、謝罪だった。
冴子はスマホの画面を見つめたまま、続けた。
「こんな大切な日にまで、我慢させて……ごめん」
「え」
「本当は、ちゃんと袴だって着せてやりたかった。周りの子と同じように……」
そこで声が詰まった。慌てて口元を押さえたが、涙が落ちるのは止められなかった。
未来がフォークを置く音がする。周りの話し声も、皿の触れ合う音も聞こえているのに、自分たちの席だけが急に静まり返ったように思えた。
「ごめんね」
冴子はもう一度言った。
「ずっと、我慢させてきたよね」
未来はしばらく口を開かなかった。テーブルの上では、皿に残った料理が少しずつ冷めていった。
「お母さん、ちょっと待ってよ」
そう言って、未来は冴子の顔を覗き込んだ。驚いたように目を見開いている。
