退職金も辞退…元エースが迎えた悲しい結末
結局、又野は潔く懲戒処分を受け入れ、部長が去って混乱を極めた営業部で粛々と体制の立て直しや引き継ぎを行った後に辞表を出しました。退職金の受け取りも辞退したとか。いかにも又野らしいと思いました。
最終出勤日に人事部に挨拶に来た又野と立ち話をする機会がありました。又野は一見してスーツがゆるいのが分かるほど痩せ、面やつれして一気に何歳も年を取ったように見えました。
「これからどうするんだ?」と尋ねたら、「そんなに蓄えがあるわけじゃないし、母親もいるから、とりあえずは日雇い仕事でもしていかないとな」と無理に笑顔を作っていました。
又野は退社直後に我々3人のLINEグループからも抜けてしまったので連絡が取れなくなり、動向が気になりながらも、こちらから連絡するのは躊躇され、そのままになっていました。
会社の新年会で久しぶりに島津と会った時に、又野の近況を聞きました。
慢性的な人手不足の時代ですし、又野のように優秀な男ならいくらでもチャンスがあるだろうという希望的な観測を持つようにしていました。しかし、社長が地元の有名人だったために営業部の不祥事が地域や業界で噂になり、SNSにも面白おかしく書き立てられたことから、再就職活動は思いのほか難航しているようでした。事件の詳細を知った母親の体調が悪化し、当座の生活費や母親の医療費を稼ぐために深夜に倉庫での梱包作業のアルバイトをしていると聞き、胸が痛みました。
今回の出来事で又野が失ったものの大きさを思うと、コンプラ違反の重みがぐんとのしかかってきます。私たち3人が入社した頃は営業の社員には自由裁量のクレジットカードが支給されるような大らかな社風でしたが、今や、こんな小さな会社でもグローバルスタンダードが求められるのかと時代の変化に戸惑うばかりです。
※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。
