株主の利益を最大限に追及する「モノ言う株主」。

モノ言う株主たちによる敵対的買収がメディアを騒がせることもあり、「強欲」「カネの亡者」とネガティブな印象がつきまといます。一方で近年、モノ言う株主たちが主張してきた企業統治(ガバナンス)の透明性、PBR1倍割れ改善などが実現されてきています。

新NISAが始まり、多くの方が新たに個人投資家となりました。株主となった立場では、これまでのイメージが変わってくるかもしれません。今回は村上ファンド創業メンバーの一人である丸木強氏の著書『「モノ言う株主」の株式市場原論』からモノ言う株主の投資哲学を紹介します。(全4回の3回目)

●第2回:「本業はイマイチでも、不動産は安定しているから…」はNG。上場企業が不動産賃貸業に手を出してはいけないワケ

※本稿は、丸木強著『「モノ言う株主」の株式市場原論』(中央公論新社)の一部を抜粋・再編集したものです。本稿の情報は、書籍発売時点に基づいています。

株主優待制度の理不尽

株主還元と言えば、株主優待を連想される方も多いでしょう。おそらくは日本の株式市場独自の慣習で、もともとは明治時代中期、鉄道会社が株主に乗車券を配ったのが発端と言われています。以来、自社のサービスや製品を株主に提供する企業が増えていきました。毎回楽しみにされている個人投資家の方も少なくないでしょう。

ただ企業価値向上の観点から見ると、私はその効果にかなり懐疑的です。むしろ法律違反ではないかとさえ思う事例もあります。

そもそもなぜ、企業は株主優待を導入するのか。かつて証券会社に勤めていた際に目の当たりにしたのは、株主数の確保に必死になる姿でした。当時の東証は一部と二部があり、ランクとしては一部のほうが上。ただし上場するにはいくつかの条件があり、株主数の確保もその一つでした。

そこで二部上場企業が一部に昇格しようとするとき、あるいは株主数が減った一部上場企業が二部転落を阻止したいとき、基準の株主数を確保・維持する一助として頼ったのが株主優待だったわけです。

2022年4月から東証は再編され、一部・二部などに代わって「プライム市場」「スタンダード市場」「グロース市場」が誕生しました。それにともなって株主数の条件は緩和されたため、株主優待を続ける動機は減ったはずです。

ただし、かねてより持ち合い株の解消による安定株主の減少という問題も持ち上がっていました。そこで今度は個人投資家を安定株主にすべく、株主優待を続けたり、もしくは新たに導入したりする企業もあるようです。

たしかに株主優待として自社のサービスや製品を提供すれば、それを機に利用者やファンが増えるという期待は持てるかもしれません。それなら、多少なりとも業績に寄与します。しかしそればかりではなく、クオカードや金券、カタログギフトなど、自社の事業とはまったく無関係な製品を配っている例もあります。要は、金銭的なメリットを提供することで、経営者を無条件に支持する株主を増やそうとしているわけです。これは、ガバナンスとしていささか不純ではないでしょうか。

しかも、これには当然相応のコストがかかります。厳密に言えば、経営者の保身のために会社の資産を使っているという意味で、会社法が定めた善管注意義務(善良な管理者の注意義務。会社から経営を委任された取締役が負うべき義務)に違反していると捉えることもできるでしょう。