<前編のあらすじ>
あこがれていた港区のタワマンで優雅な暮らしを満喫する麻美(34歳)。最上階に住む自分たち夫婦はマンションの中で一番偉いと考えており、月に一度「奥さま会」を主催している。
タワマンに引っ越してからは毎日のように写真をInstagramで公開し、その暮らしぶりを誇っていた。
そんななか、夫の働いている会社の業績が悪化し、高額な家賃を払い続けることが難しくなってしまう。夫は他界した自分の両親が住んでいた空き家に引っ越さないかと提案するが、タワマンに固執する麻美はそれを突っぱねた。
●前編:「最上階が一番偉い」優雅な生活から一転、港区タワマン専業主婦に降りかかった「マネーの悲劇」
今よりランクを下げたくない
寝室で寝ようとしている麻美に、宗尊が陰気な顔を向けてきた。
「なあ、麻美。例の話だけどさ、考えてみてくれないか? 俺たちの生活がかかってるんだ」
また、その話かと麻美はへきえきする。あの日以来、顔を合わせればその話ばかり。もちろん麻美が首を縦に振ることはない。
「もし引っ越すんだとしたら、今よりランクが下がるのは無理」
「ランクって……そんなの無理に決まってるだろ……」
「じゃあ、もうこの話は終わり。っていうかそんな話ばっかりしてこないでさ、ちょっとは稼ぐ方法とか考えたらどうなの?」
麻美の言葉に宗尊はいら立ちをあらわにする。
「俺だって、できることならここに残りたいよ。葛飾に住んだら、通勤は大変になるし」
「なら今のままでいいじゃない」
「取りあえずさ、今週の日曜に、家を見に行こう。久しく行ってないから、昔のイメージのまんまなんだって。いろいろと変わってて、気に入るかもしれないぜ」
「そんなわけないでしょ」
「な? 頼むよ」
宗尊は必死だった。
「……別に。勝手にすれば」
それでも麻美は突き放すように返事をして、電気を消した。
麻美の抵抗
約束の日の朝、私服に着替えた宗尊がリビングでくつろぐ麻美を呼びに来た。
「麻美、そろそろ出掛けるけど平気?」
「え? 何が?」
「家を見に行くって言ったろ。少し遠いから早めに出ないと」
麻美は冷めた目で宗尊を見る。
「ああ、ごめん。それパスで」
「は……?」
「エステティックの予約を入れちゃったから。そっちに行くからさ、あなた、1人で見て来なよ」
固まる宗尊を無視して、麻美は部屋で着替えを済ませ、黙って家を出た。もし見に行ったら、とんとん拍子で引っ越しの話が進んでしまうかもしれない。麻美にできる抵抗は、こうして頑な態度を示し続けることだけだった。