貯蓄から投資への流れが加速する中、ゴールベースアプローチを掲げ、組織的なアドバイス体制を武器に急成長を遂げるIFA法人が注目を集めている。独自の経営哲学のもとで成長を続ける、ファイナンシャルスタンダード代表・福田 猛氏とIFA Leading代表・長谷川 学氏。異なる成長過程をたどりながらも、顧客のゴールに寄り添う本質的な価値提供を追求する姿勢が一致する両氏に、創業の原点から自律的な成長を継続する組織の在り方、その原動力となる人材づくりの要諦、そして業界の未来展望に至るまで、『Ma-Do』2026年8月号に掲載しきれなかった内容を加えた拡大版をフィナシープロにてお届けする。(取材日/2026年7月17日)
大手証券からIFAへ ゴールベースで挑む革新
――創業の原点と、顧客への価値提供における取り組みについてお聞かせください。
福田氏 前職の証券会社時代に、自身の住宅購入に際してファイナンシャル・プランナー(FP)から保険見直しの提案を受けました。その付加価値の高さに関心を持ち、詳しく話を聞くうちに、そのFPが証券も取り扱う金融商品仲介業者(IFA)であることを知りました。IFAはプラットフォーマーである証券会社のミドル・バックを活用することで固定費を変動費化し、自社はフロント対応に専念できるレベニューシェアモデルです。得意分野に特化して付加価値を提案できる点に大きな可能性を感じ、IFAでの起業を決意しました。当初は相場予測に基づいたマーケットベースで金融商品を販売していましたが、お客さまから真の信頼を得ることはできませんでした。そこでこの手法を一切止め、「お客さまの目標やゴールを明確化し、その実現手段として金融商品を提案する」というゴールベースへと舵を切りました。
長谷川氏 私は新卒で野村證券に入社し、若手社員向けの海外修練制度でベトナムに渡り、人材紹介ビジネスの起業を経験しました。必死に働き、心から喜ばれて得た売上の重みを知り、価値を提供して初めて利益がもたらされるというビジネスの原点を強烈に実感しました。この経験から、情報の非対称性に依拠する日本の金融業界の構造的課題と世間との乖離に気づき、業界の内側からではなく外から変えていく方が早いと判断してIFAの道を選びました。当社で重要視していることは、真の顧客本位を実現する長期伴走を可能とするための「時間軸の最大化」です。そのため短期的な収益ではなく、預り資産額をKPI(重要業績評価指標)とし、創業期からCIO部門(運用戦略・アロケーション統括)を設置して金融工学に基づいた真のゴールベースアプローチをチーム体制で提供しています。
仕組み化が生む 成長の原動力と人材育成
――組織として成長を加速させた転換点と、人材育成の要諦、評価の仕組みを教えてください。
福田氏 成長力のベースとなったのは創業4年目(2016年)のマーケットベース提案からの脱却です。その上で、仕組み化の要諦としてセールスプロセスとチームマーケティングの2点を確立したことが挙げられます。1点目については、創業当時にゼロから顧客開拓に尽力する中で学んだ保険業界の科学的な手法を証券分野に応用し、顧客提案を仕組み化しました。2点目として、顧客からの反響を獲得するインバウンド型のチームマーケティングを強化しました。提案手法の転換を土台に、この2つの仕組みが両輪となって機能し、軌道に乗り始めたのです。人材採用は、当初の証券会社出身者中心から銀行出身者や未経験者、新卒まで各自の強みに応じて幅広く採用する複合的な体制へと移行しています。評価は売上のみを評価するのではなく、総合的に判断します。アドバイザーが顧客に長期的な運用提案や不動産、保険のクロスセルを行うことで、顧客への価値提供と評価が連動するようにしています。
長谷川氏 当社では、アドバイザーは“金融の万能なプロ”ではなく、幅広い知識を持つ“ゼネラリスト”であるべきだと定義しています。専門的なポートフォリオ構築やマーケット分析はCIOに委ね、アドバイザーは顧客の潜在ニーズを引き出すことに集中するという徹底した分業制を敷いています。この仕組みによりアドバイザーは顧客と向き合う時間を最大化でき、生産性(ROI)を高めることにつながっています。社員採用では固定給を手厚くしており、入社1、2年目は赤字でも構わない、赤字の方が自然と考えています。売上ではなく預り資産額を重視することで、近視眼的な営業活動を排し、長期的な顧客関係を構築することに軸足を置いています。現在、当社の新規獲得の6割以上は既存顧客からの紹介ですが、アドバイザーが特定の顧客セグメントに強みを持つことで紹介が生まれやすくなるだけでなく、専門知識も深まり、結果的に生産性も向上するという好循環につながっています。
顧客紹介を生む仕組み――長期伴走と“特化”の力
――既存顧客からの紹介は、どのようなタイミング、仕組みで生まれているのでしょうか。
福田氏 既存顧客からの紹介が生まれる大きなタイミングは2つあります。1つ目は初回面談から数カ月を経て、目標に対する具体的な運用プランが固まり期待値が高まった瞬間。2つ目は長期的な伴走によって運用の成果と信頼関係が蓄積された時期です。特に運用期間が長いほど満足度が上がるため、古くからのお客さまから紹介をいただけるケースは多く、その点が長期運用を提案するビジネスモデルの良いところでもありますね。
長谷川氏 紹介率を飛躍的に高める鍵は「ハイパースペシャライゼーション(特定領域への特化)」にあります。単に「知り合いを紹介してください」と頼むのではなく、例えばM&Aを行ったオーナーやプロスポーツ選手など、アドバイザー自身が強みを持つ属性を具体的に絞り込み、「同じような方をご存じではありませんか」とお願いすることで、紹介者の脳裏に具体的な対象が浮かびやすくなります。領域を特化することは紹介率を高めるだけでなく、アドバイザーの専門知識と業務効率を高める副次的な効果にもつながっています。
相続・事業承継まで応える富裕層ビジネスの進化
――相続や事業承継などを含む富裕層向けソリューションの拡大についてはいかがですか。
福田氏 当社では税理士・会計士等をはじめとする多様な提携先ネットワークとの連携も新規顧客開拓の大きな柱となっています。富裕層のお客さまの課題は単なる資産運用だけでなく、重い税負担への対応策や複雑な相続対策、事業承継やコーポレートファイナンスまで多岐にわたるのが実情です。そのため提携先の専門機関と強固に連携し、決算書の分析から法人の資産管理、将来的なファミリーガバナンスまで一貫してサポートできる体制を整えることで、富裕層ビジネスにおける付加価値を高めます。
長谷川氏 オーナー経営者の悩みは個人の資産運用にとどまらず、その多くが自社の事業課題に直結しています。そのため当社でも個人の資産管理だけでなく、法人と個人の資産構造を一体で捉え、提携する税理士などの専門家とも連携して役員報酬の設定や事業承継の出口戦略まで踏み込んだアドバイスを提供しています。顧客の家族までを含めたファミリー単位で包括的に伴走する体制を敷くことこそが真のゴールベースアプローチの実現につながると考えています。
大手証券とのビジネスモデルの違い――時間軸がもたらすIFAの独自価値
――大手証券会社もフィーベースへ舵を切りつつありますが、IFAならではの価値をどう捉えていますか。
福田氏 大手証券会社も従来のビジネスモデルからの変化を模索している様子がうかがえますが、強みは膨大な顧客基盤や上場企業のコーポレートファイナンス、強固なプロダクト提供力等にあります。一方で個別顧客へ長期的に一対一で向き合うアドバイスには限界も存在するのではないでしょうか。 私たちが目指すのはプロダクト競争ではなく、顧客一人ひとりに寄り添い、柔軟なカスタマイズと本質的な付加価値を追求し続けるアドバイザリーサービスの確立です。
長谷川氏 大手証券はプライベート商品やフィーベース商品を拡大させていますが、プロダクト営業の延長線上にとどまるものが多いように見えます。真の意味でのゴールベースに基づくアドバイザリーとの根本的な違いは、時間軸です。アドバイザーが数年単位で転勤する前提の構造では、10年、20年という長期運用の効果に根ざした提案は難しい。契約成立をゴールとせず、むしろ契約時をスタートとして長期間伴走できる点にこそIFAの強みがあります。
個人金融資産2400兆円を動かす IFA業界の未来と使命
――自社の5年後の展望とIFA業界全体へのメッセージをお聞かせください。
福田氏 ステークホルダーとともに資産運用のみにとどまらずファミリーガバナンスやコーポレートファイナンス等、お客さまの事業や資産、価値観を支える真のファイナンシャルアドバイザー会社を目指すことに注力していく方針です。税負担の重い日本において単なる資産運用にとどまらず、社会貢献や寄付といった「資産の使い道」まで見据えた総合的な価値提供を追求します。5年後の目標としては、現在の預り資産額約3450億円から1兆円へは早期に達成したいです。もっとも、重要なのは数字だけではなく、提供価値の本質を見失わないことです。社名のとおり、私たちが価値あると考える「スタンダード」を地道に築き、日々を楽しみながら未踏の“冒険”に挑み続けたいですね。
長谷川氏 2022年にサービスを開始して4年で預り資産額は1200億円に達しました。今後は指数関数的な成長を描き、5年後に1兆円を達成すべく、全社で一丸となって取り組んでいきます。私たちの目標は自社の成長だけでなく、アドバイザリーの成功モデルを確立し、そのノウハウをIFA業界全体、さらには証券業界へと広く共有し、金融業界全体の発展に貢献することです。約2400兆円に及ぶ日本の家計金融資産のうち、仮に1割(約240兆円)が投資に回り、年3%で運用されれば、その年間収益は名目GDPの約1%に相当します。こうした資金が新たな付加価値の創出につながれば、日本経済の成長にも寄与する可能性があります。この還流の仕組みを構築することでリテール金融はGDP拡大に資する一大産業となり得るはずです。その一助となることこそが、私たちの果たすべき使命であると確信しています。
